【解説】 トランプ氏、中国訪問へ もろい「貿易休戦」は維持されるのか

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オズモンド・チア・ビジネス記者
中国政府は、アメリカのドナルド・トランプ大統領が今週、中国を訪れ、習近平国家主席と会談すると発表した。
トランプ氏は13~15日の予定で中国を訪問する。アメリカ大統領の訪中は約10年ぶり。世界2大経済国の関係が極めて重要な局面にさしかかっている時点での、首脳会談となる。
トランプ氏には、ボーイング、シティグループ、クアルコムなど複数の米大手企業から幹部が同行する見通しで、それぞれ中国企業と取引をまとめる可能性もある。米中は現在、貿易戦争でもろい休戦状態にあり、この訪問は重要な試金石となる。
トランプ氏は昨年4月、友好国・敵国を問わず、世界各国に対して広範な輸入関税を課す方針を発表した。
この政策の大きな影響として、米中間で報復の応酬による貿易戦争が勃発。互いに100%を超える関税を課し合った。昨年10月にトランプ氏と習氏は韓国で会談。その後、関税は一時停止された。しかし、双方は脅し合いを続けている。
重要課題が山積する中での首脳会談を前に、ここまでの経緯を振り返る。
貿易戦争の始まり
トランプ氏は2016年大統領選で、アメリカにとってより公正な貿易の実現と、製造業の雇用回復を公約に掲げて勝利した。
2018年には、2500億ドル(約40兆円)相当の中国からの輸入品に関税を課すと発表。多くのアナリストは、これが貿易戦争の始まりだったとしている。
トランプ氏は同年、メキシコ、カナダ、ヨーロッパなど、他の貿易相手国にも関税を設定。大統領は、各国がアメリカから不当に利益を得ていると主張した。
こうした全世界的な措置は、特に中国にとって衝撃だったと、米ジョージタウン大学の政策研究員ニン・レン氏は言う。
「中国がトランプ氏と真剣に対応したのはこれが初めてだった。実際に(トランプ氏が関税措置を)実施するとは考えていなかったのではないか」
当時の中国は、今よりはるかに対米貿易に依存していた。
アメリカは中国製品の主要な輸入国だった。トランプ関税によってアメリカの買い手が中国製品を避けるようになれば、中国の労働者が危機に直面する状況だった。
こうした緊張は、中国で長年にわたり経済を圧迫してきた既存の問題を深刻化させた。国内消費の低迷、高い失業率、長期化する不動産危機などだ。
アメリカへの輸出は、中国の雇用にとって命綱になっていた。それがトランプ氏の登場で、危うい状態に置かれたのだった。
前出のレン氏は、「国が、貿易で黒字を生んでいる相手国との貿易戦争に耐えるのは、難しいことだ」と話す。
2021年に米大統領をトランプ氏から引き継いだジョー・バイデン氏も、中国に対する圧力を維持した。
レン氏によると、バイデン政権も、テクノロジーなどの分野でライバルの成長を抑え続ける必要があるとの認識を共有していた。そのため、トランプ政権が中国に課した関税を撤廃しないことを選んだ。
バイデン政権はまた、ハイテク大手ファーウェイなど中国企業に対する規制を導入した。これによりファーウェイは、国家安全保障上の懸念を理由に、実質的に米市場から締め出された。バイデン政権はさらに、TikTokにも監視の目を向け、のちに同社はアメリカでの事業を中国の親会社から分離させられることになった。

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中国の電気自動車(EV)も、バイデン政権によって重い関税を課せられ、米市場から事実上ブロックされた。
「トランプは中国に対して強硬と思われがちだが、バイデンのほうがよっぽどトランプより保護主義的だったとの意見もある」。香港大学の経済学者タン・ヘイワイ氏はそう話す。
トランプ2.0
トランプ氏は2025年に政権に復帰すると、関税政策をさらに強化した。
中国に対しては、合成オピオイド(麻薬性鎮痛剤)フェンタニルがアメリカに流入するのを容認しているとして、20%の関税を課した。トランプ氏が「解放の日」と呼んだ4月2日には、中国製品に34%の関税を上乗せし、世界各国の中で最高水準の関税を課した。
この関税措置は中国企業に打撃を与え、倉庫には商品が山積みになった。一方で米企業も、代わりの供給元の確保に大わらわになった。
中国は直ちに報復し、米産農産物への課税などの措置を発動した。これは、トランプ氏にとって主要な支持基盤の一つの農家に打撃を与えた。
トランプ氏は、中国がレアアース供給を世界でほぼ独占していることを考慮していなかったと思われる。レアアースは、スマートフォンから戦闘機に至るまで、あらゆる製品の製造に不可欠な資源だ。
トランプ氏は関税を武器に、アメリカにとって有利な合意を各国に迫ってきた。だが、中国の原材料に依存する米主要産業を危険にさらすわけにはいかなかった。交渉の時が訪れた。
昨年10月のトランプ氏と習氏の会談は、中国が輸出規制を一時停止することで決着し、トランプ氏が勝利した形となった。トランプ氏は、米経済の柱である農産物を中国に直ちに購入させることになったとも述べた。

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見返りとしてアメリカは、フェンタニル製造に使用される原料の流入をめぐって中国に課していた関税の一部を撤廃した。
計画されていた相互関税の引き上げも停止となった。首脳会談から数週間後には、中国への先端半導体の販売制限が解除された。ただし、最先端の半導体は解除の対象から外された。
今回の議題は何なのか
米中両国は昨年、関税をめぐって休戦で合意したものの、紛争の恒久的な解決にはなお至っていない。
中国は製造業に大きく投資している。中国で国内消費が低迷している現在、同国企業には外国で物を売る以外に選択肢がほとんどないと、前出のタン氏は言う。
「中国にはアメリカが必要だ。アメリカほど大きな消費市場をもつ国は他にない」
とはいえ、中国は今回の会談に、強い立場で臨む。
中国の輸出額は過去最高水準に達している。アメリカとの関係が薄まる中で、新たな貿易パートナーを世界中で開拓してきた結果だ。
中国は、ロボット工学分野への巨額投資を続けている。独自の先端半導体の開発や、 エヌビディアなど西側企業への依存度低減にも取り組んでいる。
一方、トランプ政権は、大豆や航空機部品など、アメリカの重要産業の製品をもっと購入するよう中国に迫る可能性が高い。
ただ、トランプ氏は今回の訪中を前に、貿易政策で打撃を被っている。米連邦最高裁が2月、「解放の日」の関税を無効とする決定を出したのだ。
トランプ氏はその間に、別の法律に基づいてすべての国に対して一時的に10%の関税を課した。同時に、中国などの国々を対象に、不公正な貿易慣行に調査をついて調査を開始した。
だが先週、米国際貿易裁判所は、この世界一律の関税は正当化されないとの判断を示した。この判断は今後、法廷で争われる可能性がある。
イランについては
トランプ氏と習氏の会談で、イランをめぐる戦争が大きな影を落とすことは間違いない。
中国は膨大な石油備蓄量と多様なエネルギー源を保持しており、これまでのところ、戦争で生じた難局を、多くの近隣諸国よりもうまく切り抜けているように見える。
中国は主要な産油国であり、輸入している原油の大部分はロシアからのものだ。こうした要素によって中国は、イランにとって最大の石油の買い手でありつつも、紛争の国内への影響を抑えらることができている。
それでも、戦争が長引くにつれ、中国経済に試練が訪れている様子がうかがえる。中国の高官らは、同国のエネルギー安全保障とサプライチェーンを守るために強力な措置を取ると誓っていると、政策アナリストのライル・モリス氏は話す。
中国とアメリカのどちらにも、紛争を終わらせたい理由はあるだろうが、イランに対するそれぞれの見方は大きく異なる。両国がこれをどう乗り越えるのか、そもそも乗り越えることができるのか、世界が注目している。











