【解説】 ハンタウイルス、どれくらい心配すべきか 世界各地で追跡調査

画像提供, Reuters
ミシェル・ロバーツ、デジタル保健編集長、トム・マッカーサー記者
ハンタウイルスの集団感染が、世界各国からの客を乗せたクルーズ船で発生した。この事態を、当局は極めて深刻に受け止めている。多くの国が乗客の追跡調査を進めている。
ハンタウイルスは、感染して重症化すると、呼吸器や腎臓の機能不全が起こる可能性がある。
集団感染が発生したクルーズ船「ホンディウス」は、4月1日にアルゼンチン・ウシュアイアを出港し、今回の旅をスタートした。最終目的地のスペイン領カナリア諸島には、5月10日に到着予定だった。
乗客3人が乗船中または下船後に死亡した。さらに4人が、治療のために船外へと医療搬送された。
ウイルスに感染し、すでに航空機で自分の国に戻っている可能性のある人を特定するため、世界各地で大規模な追跡調査が実施されている。
世界保健機関(WHO)は、この船に乗っていた自国民の経過観察をしている少なくとも12カ国(カナダ、デンマーク、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、セントクリストファー・ネヴィス、シンガポール、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリス、アメリカ)の当局者と連絡を取り合っている。
乗船者をめぐっては、異なる情報が出ている。運行会社オーシャンワイド・エクスペディションズは、22カ国からの乗客114人、乗員61人が乗船し、4月24日に南大西洋の英領セントヘレナ島で乗客32人が下船したと声明で説明した。一方、報道では、28カ国からの乗客・乗員計150人が当初乗船し、数十人が4月24日にセントヘレナ島で下船したとされる。
保健の専門家らは、公衆へのリスクは低いと強調している。では、私たちはこのウイルスについて、どれくらい心配すべきなのか。
「これは新型コロナではない」
WHOのマリア・ヴァン・ケルコフ博士は7日、これはパンデミック(世界的流行)の始まりではないと強調。「新型コロナウイルスでも、インフルエンザでもない。感染の広がり方は全く異なる」と述べた。
麻疹(はしか)のように感染力が強く、容易に広がる病気とは異なり、今回の集団感染の原因となっているハンタウイルスのアンデス株は、それほど感染力が強くない。
WHOによれば、人から人へと感染する可能はあるが、世界的に感染が広がるリスクは依然として低いという。
WHOはまた、これまでに確認された8件の症例(感染の確定が3件、疑いが5件)は、クルーズ船に乗っていた人々の中で見つかったとしている。
ただ、この病気の潜伏期間は最長6週間に及ぶため、今後さらに多くの症例が報告される可能性があるとWHOは指摘している。
今回の集団感染がどのように始まったのかは、まだ明らかではない。
ハンタウイルスは通常、ネズミなどげっ歯類の動物によって広まる。げっ歯類の尿、ふん、唾液に含まれるウイルス粒子で汚染された空気を吸い込むことで、人は感染する。
今回のクルーズ船ボンディウスの旅では、人里離れた野生動物の生息地を訪れていた。乗客は、その際にウイルスに接触した可能性がある。あるいは、そもそもこの船に乗る前に感染していたかもしれない。
専門家らは、過去のアンデス株の集団感染において、患者間で非常に密接な接触を通して感染が広がったことを確認している。保健の専門家らは、ホンディウスでの感染の一部も、人同士の接触によるものだった可能性があるとみている。
豪華クルーズ船でも、居住環境は比較的狭く、動き回るスペースは限られている。乗客は客室や食堂を共有しており、そこで感染が拡大する可能性もある。
他の人と至近距離で長時間一緒に過ごすことで、感染する場合もある。
死亡した3人のうちの1人のオランダ人女性は、4月24日にセントヘレナ島にホンディウスが寄港した際に下船していた。この女性の夫は4月11日に船内で死亡しており、女性は夫と同じ客室で過ごしていた。ただ、この夫がハンタウイルス感染の確定症例の1件なのかは現時点では不明だ。
英健康安全保障庁(UKHSA)は、公共の場や商店、職場、学校などで歩くといった日常の社会的接触を通じて、ハンタウイルスが外部の世界に広がることはないとしている。

一般市民のリスクは「無視できる程度」
症状は通常、ウイルスに感染してから2~4週間で現れる。ただ、1カ月以上たって見られることもある。船、病院、航空機などで感染した可能性がある人や「接触者」は、経過観察の対象となる。
UKHSA首席科学官のロビン・メイ教授は、接触者を追跡する作業は「とてつもない取り組み」で、「今後もしばらく(中略)継続していく」ことになると、BBCに話した。
UKHSAによると、今回のクルーズ船から戻ったイギリス人乗客は全員、予防措置として英国内で45日間、自主隔離が求められるという。
このクルーズ船と直接関わりのない一般市民については、「リスクは無視できる程度」だとメイ教授は付け加えた。
アンデス株に感染した人は、発熱、倦怠(けんたい)感、筋肉痛など、インフルエンザに似た症状を示すことがある。息切れ、腹痛、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢を伴う場合もある。
感染症を診断する検査は存在するが、特別な治療法はない。ただし、早期に病院で治療を受ければ、生存率は向上する。治療は対症療法となる。
感染の可能性がある人を追跡
UKHSAは、当局がホンディウスからイギリスに入国する英国民の受け入れを調整中だと発表した。
UKHSA流行・新興感染症担当副局長のミーラ・チャンド博士は、「公衆へのリスクは依然として非常に低いと、人々に安心してもらうことが重要だ」と話す。
「感染拡大のリスクを抑えるため、今回の船やハンタウイルス感染者と接触した可能性のある全員について、接触者追跡を進めている」
船内に残っている乗客と乗員は、航空機でそれぞれの居住国へ戻る予定だ。
船内には現地の保健当局が立ち入り、状況を評価した。
乗客は船内で隔離されている。予定されている避難に先立ち、船はプロたちによって念入りに清掃された。
運航会社オーシャンワイド・エクスペディションズは7日、船内に残っている人で症状が見られる人はいないと発表した。
同社によると、4月24日にセントヘレナ島に寄港した際に、乗客30人(うち7人はイギリス人)が下船した。その後、全員と連絡が取れているという。
UKHSAによると、セントヘレナ島で下船したイギリス人2人は、南アフリカ・ヨハネスブルク経由で帰国してから、集団感染について知った。すぐに保健当局に連絡し、英国内で自主隔離している。2人とも症状はないという。
同島で下船した他のイギリス人5人については、7日時点でまだ帰国していないとUKHSAは説明した。
アメリカでは、ジョージア州とアリゾナ州の保健当局が、下船して帰国した乗客3人について経過観察していると、BBCに明らかにした。全員、症状は見られないという。








