【解説】イギリス国王のアメリカでの演説、背景にどのような外交の思惑が

紺に白のピンストライプ・スーツ姿のチャールズ国王が米連邦議会で拍手を浴びて横を見ながら笑みを浮かべている。後ろで、白いワンピース姿のカミラ王妃もほほえんでいる。

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ヌール・ナンジ 王室担当編集委員

英国王チャールズ3世による米連邦議会での演説が外交的な綱渡りになることは、最初から想定されていた。

それでも国王は、重要な政治的論点をいくつか提示しつつも、それを穏やかな、国王らしい語り口で伝える演説を成し遂げた。

この演説で国王は、北大西洋条約機構(NATO)やウクライナに触れ、欧米民主主義の重要性をあらためて強調し、気候変動についてもさりげなく言及した。ドナルド・トランプ米大統領は過去に気候変動のことを「でっちあげ」だと発言しているのだが、それでもなお。

国王の言葉に対し、議事堂では全員が立ち上がり拍手するスタンディングオベーションが12回も繰り返された。つまり、国王の言葉は聴衆に強く響いたのだろう。

世界各地からの反応も、ひたすら好意的だった。米紙ニューヨーク・タイムズは国王がトランプ氏に「さりげなく反論」したと指摘した。仏紙ル・モンドは、アメリカの政治家が「洗練された演説という習慣」を思い出すには、イギリス国王が必要だったと評した。

王室関係者の発言は得てして、その意味を解読する必要があるものだ。そして、国王は自分を招いた国と大統領を不快にさせることは、避けようとしたはずだ。それでもこの君主は、自分にとって大事な問題については、一歩も引かずに立場を明示した。

では、和やかでありつつも言いたいことは言うという難しいバランスを、国王はどうやって実現したのだろうか。

動画説明, チャールズ英国王、アメリカの行動が重要と米議会で演説 民主主義と同盟の意義を強調

NATOへの支持

国王は演説で、NATOを擁護した。イラン戦争でNATO加盟国はもっと大きい役割を果たすべきなのにそうしようとしないと、トランプ氏が公然と批判し続けている中でのことだ。

国王は、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の言葉を引用し、「ヨーロッパとアメリカという2本の柱に基づく」大西洋の「パートナーシップ」について語った。2001年9月11日の同時多発攻撃の直後、NATO各国がアメリカのために出動態勢をとったことにも言及した。

「テロに直面し、私たちは一緒になって要請に応えました」と、国王は述べた。

国王のこの発言は力強いと同時に、同盟の利点を、アメリカの大統領にさりげなく思い出させようとするものだった。

トランプ大統領は先月、32カ国が加盟するNATOは「一方通行の道」だと、常にそう考えていたとして、「我々は彼らを守るが、彼らは我々のために何もしない」と書いた。

対するチャールズ国王は議会演説の後、公式夕食会での乾杯のあいさつでも、NATOへの支持を改めて強調した。このメッセージが大統領の記憶に残ることを、イギリスの首相官邸が期待しているのは明らかだ。

米連邦議会両院合同会議が開かれた下院本会議場で、チャールズ英国王が壇上で原稿を前に話し、その前に扇状に広がる議席で議員たちが立ち上がり拍手している

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画像説明, 国王の演説に、スタンディングオベーションが12回も繰り返された(4月28日、米連邦議会)

海軍への誇りと選び抜かれた贈り物

トランプ大統領は過去に、イギリスの海軍力を批判し、その艦船を「おもちゃ」と呼び、空母は「機能していない」と述べたことがある。

これについても、国王は慎重に異議を唱えた。国王は、父の故エディンバラ公フィリップ殿下の「海軍での足跡」に続き、自分も「この上ない誇り」をもってイギリス海軍に奉職したのだと述べた。

海軍に関する発言は、強固な英米関係の重要性を強調するためのものだったとも受け取れる。国王は、安全保障や防衛の連携、機密情報共有に言及した。

トランプ氏への贈り物も海軍にちなんだものが選ばれた。国王は大統領に、第2次世界大戦期のイギリスの潜水艦「トランプ」の鐘を贈呈したのだ。

金色のカーテンを背に、燕尾服姿で首元や胸に多くの勲章を付けて正装した国王が、演台の後ろに立ってほほえんでいる。台の前には金色のワシの像。隣の別の代には、「TRUMP 1944」と刻まれた金色の鐘が置かれている。

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画像説明, チャールズ国王は英潜水艦「トランプ」の鐘を大統領に贈った

権力の「抑制」について警告

国の統治における抑制と均衡についてアメリカに思い出させる際にも、国王は言葉を慎重に選んだ。

大統領権限を拡大しようとするトランプ氏の行動は、しばしば批判されているからだ。

国王は直接的にはトランプ政権を批判しなかった。それでも、自分の姿勢をやんわりと示した。

国王はイギリスの歴史を切り口にマグナ・カルタ(大憲章)に言及し、アメリカの連邦最高裁判所が1789年以降、160件以上の判例で、「行政権は抑制と均衡の対象なのだという、原理原則の基盤」としてマグナ・カルタを引用してきたと指摘した。

この発言に対して、まずは野党・民主党側から、次いで議場全体へとスタンディングオベーションが広がった。

金色の置物が並び、金色の装飾が大量に施された暖炉や壁を背に、金色の布張りの椅子に座った国王と大統領が談笑している。トランプ氏は右手を軽く国王の膝にのせている

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画像説明, チャールズ国王は国賓としてアメリカを訪問中、トランプ大統領と2日間、共に過ごした。写真はホワイトハウスの大統領執務室でのもの

気候変動の脅威について

トランプ大統領は以前から気候変動を「でっちあげ」や「詐欺」だと呼び、気候変動への国際的な取り組みを決めた2015年のパリ協定からも離脱している。

それに対して自然を愛することで知られるチャールズ国王は、環境に対する自分の考えを示した。

議会演説の終盤で国王は、アメリカの「自然の驚異」に触れ、「一番大事な、かけがえのない資産」を守るという責任を共有しているのだと強調した。

そして、もし自然を守らなければどうなるのか、さらに直接的に警告した。

「こうした自然のシステム、言い換えれば自然そのものの経済が、私たちの繁栄と国家安全保障の基盤を提供しています。これを軽視することは、私たち自身の身を危うくするのです」と国王は述べた。

「さまざまな害の被害者」についても言葉を選び

公園で開かれた追悼式典で、まとまってお互いを抱きしめあう、ジュフレーさんの兄弟や義理の姉妹たち

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画像説明, 性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)の被害を告発した後、昨年4月に自死したヴァージニア・ジュフレー氏の命日に集まった遺族たち(4月25日、ワシントン)

国王は今回の訪米にあたり、性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)の被害者との面会するよう、圧力を受けていた。弟のアンドリュー・マウントバッテン=ウィンザー元王子をめぐるスキャンダルもあり、この件は特に注目されていた。

王室関係者によると、被害者との面会は、法的手続きに影響を及ぼし、被害者の救済と正義実現を損なうおそれがあるとして、実現しなかったという。

国王の演説に、エプスティーン元被告への直接的な言及はなかった。しかし、「両国の社会に、あまりに悲劇的に存在する、さまざまな害の被害者を支援する必要性」について、婉曲的に触れた。

この表現は、ロー・カンナ米下院議員、被害者のリサ・フィリップス氏、故ヴァージニア・ジュフレー氏の遺族をはじめ、国王夫妻にいっそう積極的な対応を望んでいた人々にとっては、十分ではないかもしれない。

アメリカとイギリスの関係

同じ色のスーツとネクタイを着けた両首脳が親しげに握手している

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画像説明, イランとの戦争に非協力的だとして、トランプ氏はスターマー英首相を繰り返し強く非難している。写真は2025年2月に米ホワイトハウスで撮られたもの

国王夫妻の訪米に先立ち王室関係者は、「多くの大統領ともちろん多くの君主を経て永らえてきた」英米のパートナーシップを支えるため、チャールズ国王には独自の貢献が可能だと話していた。

そして国王は演説全体を通じて、両国関係がいかに重要かを繰り返した。イラン戦争をめぐってトランプ大統領が非難を繰り返してきたキア・スターマー英首相についても、国王は配慮を見せた。

「私の首相が先月述べたように、我々の関係は不可欠なパートナーシップです。過去80年間、我々を支えてきたあらゆることを、無視してはなりません。むしろ、それを土台にして、さらに築いていくべきなのです」と国王は語った。

ウクライナ防衛

国王の演説には、暗喩の解読を必要としない、はっきりした発言もあった。

ウクライナ防衛について、国王は率直だった。

英米の力強いパートナーシップはこれまで、共通の敵に立ち向かい、世界の安全を確保するために使われてきたと国王は述べた。

そして、ロシアとの戦争のさなかにあるウクライナを守り、「真に公正で持続的な平和」を確保するため、今こそ両国の連携が必要だと訴えた。

ここで国王がトランプ大統領に何を言おうとしているのか、そのメッセージは明確に思えた。大統領はこれまでロシアに融和的で、欧州の安全保障にアメリカが長期的に注力する用意があるのかどうかも疑問視されてきたからだ。

「私たちが直面している課題は、どの国だろうと一国だけで背負うには、あまりに大きすぎます」と国王は述べた。ウクライナ問題を幅広い世界的危機の一部に位置づけたうえで、同盟国同士の協力を促した。

今回の公式訪問は、イギリス王室にとって苦しいタイミングでのものだった。国王の弟とエプスティーン元被告の関係をめぐり、王室は厳しい視線にさらされ続けている。否定的なニュースの見出しは今後も続く可能性が高い。

それでも国王はこの演説で、危うい外交の海を巧みに渡ってみせた。トランプ大統領の言い分のいくつかをやんわりと退けつつも、大統領の笑顔を消すようなことはしなかった。それは並大抵のことではない。