イスラエル、10月7日の攻撃に関与した者に対する死刑と公開裁判を認める法案を可決

パレスチナ国旗やアラビア語で書かれたプラカードを持った人々が、建物の前に集まっている。女性は髪や顔をスカーフで覆っている
画像説明, ガザ市では、イスラエル議会が可決した新法に対する抗議が行われた
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ヨランド・ネル中東特派員

イスラエル国会(クネセト)は11日、2023年10月7日にパレスチナ・ガザ地区の武装組織ハマスが主導したイスラエル南部への攻撃と大規模な人質連行に関与した人物に対し、死刑適用と公開裁判の実施を可能にする新たな法案を可決した。

政府与党と野党の政治家が異例にも共同で提出したこの法案は、賛成93、反対ゼロの賛成多数で可決された。残る27人の議員は欠席するか棄権した。

議会での採決を前に開かれた記者会見で、法案の共同提出者ユリア・マリノフスキー議員は、「犠牲者とその家族が、殺人者、強姦犯、誘拐犯たちの目をいかにまっすぐ見据えるか、その姿をあらゆる人に見てもらいたい」と述べた。

野党議員のマリノフスキー氏は、「イスラエル国家が、自分たちに危害を加えた者たちに責任を負わせる方法を知っている、そういう主権国家だと、あらゆる人に見てもらいたい」とも述べ、「私たちはゴールラインにたどりついた。しかしこれは実のところ、スタートラインだ。世界中が目にすることになる歴史的裁判の始まりだ」と話した。

イスラエルの人権団体はこの新法に反発。死刑適用に反対するとともに、拷問によって引き出されたとされる自白に基づく「見せしめ裁判」への警告も発している。

2023年10月7日は、イスラエル建国以来、最も多くの命が失われた日となった。ハマス主導の攻撃では民間人を中心とする1200人超が殺害されたほか、251人が人質として連れ去られた。

これを受けてイスラエルが開始したガザへの軍事侵攻も、同地区で過去最悪の紛争になった。ハマスが運営するガザの保健省によると、これまでに7万2740人が殺されており、その大多数は子どもや女性、高齢者だという。

クネセトは3月、殺人を伴うテロ攻撃で有罪となったパレスチナ人を原則死刑とする法案を可決したが、この法律は過去にさかのぼって適用されない。そのため、2023年10月7日の攻撃を実行したとされる人物に対処するには、別の立法が必要だった。

この法律を支持する政治家らは、歴史的意義を持つ裁判が可能になると述べ、ナチス幹部でホロコースト遂行に大きく関与したアドルフ・アイヒマンの裁判になぞらえている。1962年に絞首刑に処されたアイヒマンは、イスラエルの民事裁判所によって死刑判決を受けた唯一の人物。

通常の刑事裁判とは異なる規則を適用

新法は、10月7日の攻撃に直接的に関与したとされる人物を訴追するための特別な法的枠組みを創設するもの。対象には、イスラエル国内で拘束された、ハマスの軍事部門カッサム旅団のヌクバ特殊部隊の隊員らが含まれる。

被告らは、テロ行為や殺人、性的暴力、さらにはジェノサイド(集団殺害)のを罪で起訴される見通し。ジェノサイドで有罪となった場合には死刑が科される。裁判はエルサレムの特別軍事法廷で行われ、通常の刑事裁判とは異なる規則が適用される。

公判の冒頭、評決、量刑言い渡しを含む主要な場面は撮影され、専用のウェブサイトで配信される予定だ。

10月7日の襲撃の被害者や遺族らは、新たな法案をめぐる議会委員会の協議を傍聴した。

そのうちの1人、カルミット・パルティ・カツィル氏は、最も甚大な被害を受けた人たちの権利を守るために参加したと話した。兄弟のエラド・カツィル氏はキブツ・ニル・オズの自宅から拉致され、拘束中に殺害された。父ラミさんはその場で殺害された。人質にされて49日後に解放された母ハナさんは、2024年12月に亡くなった。

カツィル氏はイスラエル軍のラジオで、「多くの点で、この出来事はまだ終わっていないということを理解することが重要だ」と語った。

「実に多くの人が、家族を殺されたことについてまだ、なんの答えもないまま多くの疑問を抱えている。重要な情報の大部分が、私たちにはまったく届いていない」

新法の支持者らは、軍事裁判所が極めて大規模で重要性の高い法的手続きを扱えるよう、証拠や手続きに関する通常の規則の一部を調整すると述べている。また、こうした変更は、裁判の公平性に重大な影響を与えるものではないと主張している。

一方で、人権団体はこれに異議を唱え、現行の手続きは被告人の権利を保護するために設計されていると指摘。また、被告が直接出廷しないまま行われる審理も出てくるとみている。

イスラエル拷問反対公共委員会のサリ・バシ事務局長は、「連立政府のメンバーは、自分たちが設置したこの裁判が大量の処刑につながるだろうとの期待を明確にしてきた」と述べた。

「私たちは、10月7日の犯罪に関与した疑いで拘束されているパレスチナ人が、体系的かつ広範に拷問を受けてきたことを知っている。私の懸念は、彼らが拷問によって引き出された自白に基づいて有罪とされ、さらには処刑されることだ」

「イスラエル南部での民間人攻撃に関わった人々はその責任を問われるべきだが、このやり方ではない」と、バシ氏は続けた。

「彼らには適正手続きが保障されるべきで、死刑が選択肢に上るべきでは決してない」

イスラエル政府は、国際法の基準を順守していると主張し、拷問が広範に行われているとの指摘を否定している。

ヤリフ・レヴィン司法相は10日の記者会見で、これらの特別な法的枠組みを設けるため、自身の指揮の下で「巨大かつ前例のない規模の作業」が行われたと述べた。

レヴィン氏は、調査チームが「何千時間もの映像を視聴し、膨大な証拠を精査すると同時に、虐殺を実行して拘束されたテロリストを取り調べた」と語った。裁判の映像と音声の記録は最終的に、公文書館に保存される見通しだ。

正式な起訴のないまま1200人超を拘束

イスラエル刑務庁は現在、いわゆる「不法戦闘員」として1283人を拘束している。これらの人々に対しては正式な起訴がされておらず、その大半はガザ出身者だ。

また、少数のガザ出身者がイスラエル軍に拘束されているとみられているほか、10月7日の攻撃への関与が疑われるとして、300〜400人のガザ出身者が刑事被告として拘束されていると報じられている。

多くのガザ住民は現在も、2023年10月の攻撃の際にイスラエルに越境したことが分かっている、あるいはそう信じられている親族や、その後拘束された親族について、情報を求め続けている。

11日には、北部ガザ市にある国際赤十字委員会本部の外で、数十人が新たな死刑法に抗議した。

2023年10月7日以来、行方不明になっているジャーナリスト、ハイサム・アルワハド氏の兄弟のヒシャム・アルハワド氏はBBCに、「見てほしい。この法律は残酷だ。生きる支えとなっている希望を奪おうとする法律だ」と語った。

「被収監者の家族、行方不明者の家族として、私たちは各国とその世論、国際社会、アラブ、イスラムの世論に対し、このような法律、このような事態を止めるために行動するよう呼びかけている」

ひげを蓄え、報道関係者であることを示すジャケットを着た男性が、がれきになった建物の近くてカメラを構えている
画像説明, 2023年10月7日以降、行方不明となっているジャーナリストのハイサム・アルワハド氏

イスラエルは長年、事実上の死刑廃止国だが、最近の世論調査では、ユダヤ系イスラエル人の間で、死刑に対する支持が高まっていることが示されている。特に、テロ行為で有罪判決を受けたヌクバ部隊の戦闘員に関して、その傾向が顕著だ。

調査ではまた、10月7日の攻撃をめぐる独立した調査委員会の設置についても幅広い支持が示されている。ただし、現政権の連立与党は、政府主導の調査にのみ取り組む姿勢を示している。

多くのイスラエル人遺族は、新たな特別軍事法廷法は、正義の一側面にしか対応していないと強く主張している。

パルティ・カツィル氏は次のように述べた。「ヌクバのテロリストだけに焦点を当て、この恐ろしい悲劇がどのように起きたのか、誰が責任を取るのか、誰が法的責任を負うのか、そして遺族の癒やしがどのように考慮されるのかを問わないということは、あってはならない」