【解説】スターマー英首相は続投できるのか? 地方選で労働党大敗後に考えられるシナリオ

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ニック・アードリー政治担当編集委員、ブライアン・ウィーラー政治記者、デイミアン・グラマティカス政治担当編集委員
キア・スターマー英首相が率いる労働党政権が、これほどまでに弱い立場に追い込まれた様子は、これまでなかった。7日の地方選挙での壊滅的な結果を受け、与党議員からも、退陣を求める声が広がっている。
スターマー首相は続投して闘い続けると誓い、2期務める可能性にまで言及している。しかし、自分の続投を選ぶ権利は近く、本人の手を離れるかもしれない。
急展開する不安定な状況だ。今後数日から数週間にかけて、事態がどう展開する可能性があるのか、いくつかのシナリオを解説する。
1. ウェスト議員が党首選開始を発議
労働党のキャサリン・ウェスト下院議員は7日、党首選でスターマー氏に挑む用意があると表明し、周囲を驚かせた。
ウェスト議員は、党内でも決して知名度が高いわけではない。スターマー氏は、労働党が2024年の総選挙で勝利した後、同氏を外務省担当の政務次官に任命したが、昨年の内閣改造で罷免した。
ウェスト氏は、自分自身が首相ポストを狙うつもりはないものの、党首選出馬を水面下で準備してきた閣僚たちが、7日の大敗後に表立った行動をためらっている様子に、いら立っているのだと述べた。
党首選の発議には、労働党下院議員の20%、つまり81人から支持を得る必要がある。
これまでに30人を超える議員が公の場でスターマー氏の退陣を求めてきたが、その全員がウェスト氏を支持するとは限らない。党首選を行うには、今は適切な時期ではないと感じている議員もいる。
ウェスト氏による党首選開始の発議が成功したとしても、その後の主導権は、かねて首相職に意欲を示しているウェス・ストリーティング保健相や、アンジェラ・レイナー前副首相、あるいは他の有力議員に移ることになる。
ストリーティング氏は7日に首相を支持すると表明したが、党首選に一切立候補しないとは明言しなかった。一方レイナー氏は9日に、1000語に及ぶ声明を出し、労働党が変革を実現するための「最後の機会」に直面している可能性があるとスターマー首相に警告した。
2. ウェスト議員への支持が足りなくても
ウェスト氏が党首選に向けて60~70人の議員の支持を取り付ければ、それだけでストリーティング氏やレイナー氏は出馬しようとするかもしれない。60~70人もの労働党議員が党首選を支持するなら、党首交代の機運が党内で十分高まっていると、党内の有力者たちは確信する可能性がある。
同時に、ストリーティング、レイナー両氏や他の党内実力者がいよいよ動き出せば、党はスターマー党首を追い出そうとしているのだという、本人への警告にもなる。
このほか、閣僚の辞職も要素になり得る。これは、保守党政権でそうだったが、首相が退陣に追い込まれる前兆になる可能性がある。
3. スターマー氏の立場が今のところは固まる
ウェスト氏の党首選発議が完全に失敗に終わった場合、少なくとも短期的には、スターマー氏の立場が固まることになるだろう。
党首選の発議が失敗すれば、首相は自分は党の支持を得ているのだと、主張できるようになる。さらに、党首を目指す党内の有力議員らに対して、実は労働党の議員たちはいざとなると、非公式の場で口にしているほどには、首相を進んで排除しようとは思っていないのかもしれないと、そういう合図にもなる。
4. 首相自身が退任時期を示す
これは、ウェスト氏を含む一部の労働党議員にとって理想的なシナリオだ。生活費危機の打撃が続く有権者にとっては、労働党が党首選でごたごたするなど、ただの党内の自己満足的なお家騒動にしか見えない可能性がある。スターマー氏が自ら退くと発表するなら、そうした事態は回避できる。
主要閣僚らがスターマー氏を説得し、党のために身を引く必要があると伝えるだろうか。スターマー氏はそれに耳を傾けるだろうか。
また、党首選で争うことなく党内をまとめられるような、そのような後継者に労働党は合意できるだろうか。
現時点では、この道筋をたどる可能性は低いと思われる。スターマー氏は、退任時期を設定すれば自分自身が死に体のいわゆる「ゾンビ首相」になってしまうと知っている。その場合、党首を目指す議員らの主導権争いが数週間、あるいは数カ月にわたって続き、その何もかもが情勢を不安定にすると承知しているからだ。
5. スターマー氏が議員らを説得する
スターマー氏は再出発を告げる演説に慣れているものの、11日に予定されている演説は、これまでの政治人生の中で最も重要なものになる見通しだ。失敗すれば、政治家として最後のものになる可能性もある。
労働党の議員らは、党がどれほど厳しい状況にあるかを首相が理解しているか、首相の口から聞きたいと思っている。今の難局から党が脱するための明確な構想が首相にはあり、政府が国民の生活に前向きな変化をもたらせると有権者を説得できるのだと、スターマー氏から聞きたいと考えている。
スターマー氏は、すでに厳しい立場にあった昨年、労働党大会での演説で、リフォームUKと正面から戦うと語った。多くの労働党議員はこれを、同氏の党首としての演説でも最良の一つだったと受け止めている。
ウェスト議員は、首相がこれから何を言うのか、その内容を見極めてから、党首選での推薦を求める書簡を同僚らに送るかを決めるとしている。
13日には議会で、君主が政府の施政方針を読み上げる「国王の演説」が控えている。
エネルギー価格対策や欧州連合(EU)との関係強化に向けた政策を政府が実施すると国王が約束する中、労働党内が新たな目的意識と活力で盛り上がることを、スターマー首相は期待している。
このシナリオでは、労働党議員たちは党首交代の話などすっかり忘れ、2年近く前に総選挙圧勝を実現した人物、つまりスターマー氏のもとで再結集することになる。
6. 労働党の有力者が下院に復帰する
このシナリオは、スターマー氏が首相職にととどまり、グレーター・マンチェスターのアンディ・バーナム市長が下院議員に復帰し、党首選を開始するまで政権を維持するというものだ。
党首への野心を隠してこなかったバーナム氏は、今年2月に行われた下院の補欠選挙の際、労働党全国執行委員会に出馬を阻止された。
バーナム氏の支持者らは、現在の党内の空気を踏まえれば、同委が再び同じ対応を取る度胸はないはずだと主張する。レイナー議員も、議会に「最高の選手」をそろえるため、バーナム氏の復帰を認めるべきだとしている。
しかし、委員会のメンバーはBBCに対し、バーナム氏の復帰を阻止すると語っている。
重要な点だが、このシナリオは、バーナム氏のために自ら辞職して補選を可能にしようという議員が、果たして現れるかどうかにかかっている。現時点ではそうなっていない。また、バーナム氏が労働党の候補に選ばれ、選挙区で立候補しても、落選する可能性もある。
7. スターマー氏が「もうたくさんだ」となり、首相を辞任する
地方選からこちら、首相の発言内容を総合すると、これは実現可能性が一番低い、あり得ないシナリオに見える。
しかし現時点では、何が起きてもおかしくないという印象だ。











