英首相への党内圧力続く、近くストリーティング保健相が党首選に名乗りか 国王の演説で議会開会

イギリス議会下院本会議場の緑色の革張りベンチに、厳しい表情で座るスーツ姿のスターマー首相。左右にラミー副首相とリーヴス財務相

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画像説明, 国王の演説で議会の新会期が始まり、下院審議に臨むスターマー英首相(13日、ロンドン)
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イギリス地方選で与党・労働党が大敗した結果を受け、党内から辞任圧力を受け続けているキア・スターマー首相は13日、もし党首選に至るようなら労働党は「混乱に陥いる可能性がある」と、閣僚および労働党議員に警鐘を鳴らした。ウェス・ストリーティング保健相が近く、党首選に名乗りを上げるのではないかとの観測が強まっている。これに先立ち同日、イギリス議会は恒例の「国王の演説」で新会期を開始。その中で政府は新会期で成立を目指す37法案を議会に提示した。

チャールズ国王が上院で政府の施政方針を読み上げる前、スターマー氏は国王の演説に含まれる新法案を下院に説明。「働く人々を失望させてきたこれまでのあり方を終わらせる」と強調。保健、住宅、移民などの分野での改革を約束した。

天井の高い上院本会議場で金色の装飾を背にした王座に座る国王夫妻と、その前に並ぶ赤い衣の上院議員たち。左右のギャラリーには平服の大勢が座っている

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画像説明, 国王が上院で施政方針を演説し、新しい議会会期が始まった(13日、ロンドン)

スターマー首相は、13日夕には議会で複数の労働党議員や閣僚と会談。「党首選で我々が混乱に陥いるなど、あってはならない。党首の座への挑戦があれば、確実にそうなる」と述べた。

首相は、大臣職の政権幹部との会談と、政務次官たちとの会談を別々に行い、それぞれ約15分続いたことが、BBCの取材で分かった。

閣僚たちは首相に、政府はこれまでと異なりむしろ反体制の革新勢力のようにして国政に臨む必要があり、統治方法を変える必要があると訴えたという。首相も、自分が態度を変える必要があると認めたとされる。

スターマー政権では12日、続投意思を堅持する首相に抗議して政務次官4人が辞任した。

閣内では、かねて党首を目指す意思を公にしてきたストリーティング保健相が、党首選に名乗りを上げる意向とみられている。

ストリーティング氏が党首選に挑むとの観測が高まる中、同氏は13日朝、議会開会に先立ち首相官邸を訪れ、20分足らず首相と会談した。

官邸報道官は、首相はストリーティング氏に「全面的な信頼」を寄せていると述べたが、会談内容の詳細には触れなかった。

ストリーティング氏の有力支持者2人はBBCに対し、早ければ14日にも同氏が挑戦に踏み切るとの見通しを示した。また、もし同氏がこのタイミングを見送った場合、支持者は失望するはずだと話す関係者もいる。

ストリーティング氏の支持者の1人は、もし同氏が今ここでスターマー首相に挑戦しないなら、「自分たちが何のためにわざわざ自分を刺したのか、まったく分からないことになる」と述べた。

石像や彫刻などが施されたゴシック様式のクリーム色の石の壁に囲まれたイギリス議会中央ロビーを並んで歩く与野党の幹部たち。ストリーティング氏はカメラに向かって笑顔を浮かべている

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画像説明, 国王の演説を聞くために上院本会議場へ向かうストリーティング保健相(左)と、保守党のクレヴァリー影の住宅相

労働党の規則では、党首選を開始するには1人の候補が議員81人の支持を得ている必要がある。スターマー首相は自動的に候補者となり、推薦を集める必要はない。

ストリーティング氏が閣僚を辞任し党首選を開始させる準備を進めていると英タイムズ紙が報道したことについて、同氏の報道担当者は同紙に対し、「ウェスは保健相だ。病院の待ち時間を短縮し、国民保健サービス(NHS)を立て直した自分の実績を誇りに思っている」と述べた。

国王の演説で政府は何を

王冠と白いマントなどの礼装姿で金色の王座に座る国王夫妻。チャールズ国王は演説を読み上げている。左右に、赤い制服の男の子たちや白い礼服の付き添いの女性が立っている

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画像説明, 上院本会議場で施政方針演説を読み上げるチャールズ国王

議会の新会期開始にあたり国王が政府の施政方針を発表する演説は、時の政権が原稿を用意する。

チャールズ国王が上院で読み上げた今回の演説には、イギリスの国民保健サービス(NHS)の刷新、デジタルID導入、司法改革の一環としての陪審員裁判の制限、住宅供給拡大と安定化のための複数施策などが含まれていた。また、英鉄鋼会社ブリティッシュ・スティールの国有化、グリーンエネルギー基盤の迅速整備、欧州連合(EU)との貿易関係強化、イングランド北部の鉄道サービス改善への投資なども盛り込まれた。

小規模事業主の保護強化(材料納入遅延への罰則強化)や、借家のエネルギー利用効率化を家主に義務付ける措置、低所得世帯への光熱費支援を政府が提供しやすくする施策の実現も目指す。

警察改革法案では、イングランドとウェールズでの警察組織の刷新・拡大のほか、「最も重大な犯罪」捜査にあたる全国的な警察組織の設置に取り組む。

議論の多い移民・難民の対応については、いったん認めた難民資格を従来より取り消しやすくするほか、税金を財源とした難民資格申請者への支援策を縮小する法案も、提案された。

イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)のように外国政府と関係のある組織の活動を、イギリス国内で禁止しやすくするための新法案や、戦争に備えて退役兵を動員しやすくする法案も示された。

2024年夏にイングランド北西部サウスポートで起きた襲撃事件とそれを受けて全国的に拡大した騒乱を受けて、深刻な暴力を「礼賛したり、矮小(わいしょう)化したり、普通のことのように扱ったり」して描くようなコンテンツを共有する行為を犯罪にする法案も提示された。

スターマー氏が下院で説明

答弁代を前に笑顔を浮かべる首相と、その発言を笑顔で聞いている労働党の閣僚や議員たち

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画像説明, 国王の演説について下院審議に臨むスターマー首相と労働党議員たち

スターマー首相は下院で、こうした数々の法案について説明し、国王演説の内容は「主な公共サービス全般にわたる、急進的な改革計画」だと述べた。

首相は、「働く人々や賃借人、社会的に恵まれない人々へ権力を戻し、これまで体制側が繰り返し無視してきた人々に声を与える、緊急に、そして積極的に活動する労働党政権」を自分は率いているのだと強調した。

スターマー氏は党内支持を立て直そうとした11日の演説でも、こうした表現を使っていた。首相は11日には、「ゆるやかな変化では不十分だ」とし、「大きな課題に正面から向き合う」と述べていた。

しかし、労働党議員の多くは、有権者はもっと大胆な行動を政府に求めていると考えており、首相がそうした指導力を示したとは受け止めなかった。

13日の下院審議で労働党のジョナサン・ブラッシュ議員は、国民が「切実に求めている希望」を首相が提示できていないと批判。「これは人としての資質の問題だと言う人もいるだろうが、そうではない。これは政策の問題であって、大々的な変化が求められている今この時の要請に、応える意思が我々にあるのかどうかだ」と主張した。

労働党では、80人以上の下院議員がスターマー氏の即時辞任もしくは退任時期の表明を求めており、ブラッシュ議員もその一人。

最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、国王の演説を受けての下院質疑で、労働党の政権運営と首相の指導力を厳しく批判した。

ベイドノック党首はスターマー首相について、「首相の地位にはあっても、権力は持っていない」と述べ、「国王演説は内容に乏しかったが、そのわずかな内容でさえも(スターマー首相が)自ら実現できない」のは明らかだと主張した。

ベイドノック氏はさらに、閣僚席に座っていたストリーティング保健相に言及し、「最近いささか、気もそぞろのようだ」と、党首への野心を皮肉った。

「私をにらんでも無駄だ。彼が裏で何をしてきたのか、皆知っている」とも、ベイドノック氏は述べた。

下院本会議場で閣僚席に座ったスーツ姿のストリーティング氏が目を見開き、口を開いて何かを言っている様子

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画像説明, 国王演説の際の下院審議でストリーティング保健相(中央のえんじ色のネクタイ姿)は、スターマー首相から8人目の位置の政権閣僚席に座った。ここでは最大野党・保守党のベイドノック党首の発言に反応している

同日夜には、閣僚らが議事堂内の喫茶室などで労働党議員たちの説得に当たり、党首選が行われれば「政府は今後何カ月も身動きがとれず、何も仕事ができなくなる」、「混乱を招く」などと訴えた。

ストリーティング保健相が今後どうするのか、その動きに注目が集まる一方、労働党内には党首の座を狙う他の有力政治家も存在する。

マンチェスターのアンディ・バーナム市長は、多くの労働党議員に支持されているほか、最も人気のある労働党の政治家だという世論調査結果も出ている。ただし現在は市長で下院議員ではないため、国政復帰には補欠選挙などで下院議員になる必要がある。バーナム氏は今年初めに、グレーター・マンチェスターにあるゴートン・アンド・デントン選挙区の補選に労働党候補として出馬しようとしたが、スターマー氏の側近がこれを阻止した。

バーナム市長の下院補選出馬を可能にするため、一部の労働党議員が辞任するのではないかと取りざたされているものの、これについて名前が挙がった複数の議員は、それを否定している。

一方で、バーナム氏は14日に予定されていたBBCラジオ・マンチェスターの番組出演を中止した。市長にさまざまな質問をする恒例の番組だが、これに欠席したのは、党首選に挑むからではないかと臆測が高まっている。

バーナム氏の報道官はBBCに対し、「番組欠席など、アンディはできるならそんなことはしたくないのだが、今週はグレーター・マンチェスターにとって最善の成果を得るため、先週の地方選の結果にもとづく協議を優先しなくてはならない」のだと述べた。