英下院、前大使の審査めぐる首相答弁について首相を調査しないと決定 野党の動議を否決

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リチャード・ウィーラー 政治記者
イギリス議会下院は28日、ピーター・マンデルソン前駐米大使の任命審査をめぐるキア・スターマー首相の下院答弁が、議会をミスリードして誤解させるものだったかどうかについて、下院倫理基準・特権委員会に調査を付託しないことを採決で決めた。
下院議員たちは、調査開始を求めた最大野党・保守党の動議を、賛成223、反対335で否決した。
与党・労働党内の左派議員からは、スターマー首相が自ら特権委員会に付託すべきだったという意見も出たが、与党議員の結束確保を首相官邸が働きかけた結果、労働党の多数派は動議に反対した。
マンデルソン卿をイギリスの駐米大使に選んだ際の適格性審査が「適正な手続き」を踏んだのかについて、また外務省の担当者に「一切の圧力」を加えていないと主張した点について、首相答弁が議員を誤解させたとの非難を、スターマー首相は否定している。
保守党のケミ・ベイドノック党首は、議会規則違反の疑いを調査する超党派の特権委員会に、首相の発言を付託することを求める動議を提出していた。
閣僚規範では、わざと議会に誤解を与えた閣僚は辞任が求められる一方、不注意から誤った答弁をした閣僚には「可能な限り早い時点」での訂正が求められている。
保守党の動議を「政治的なスタント」だと評した労働党議員について、ベイドノック氏は「羊のように行動している」と反発していた。
一方で、一部の労働党議員からは、動議に反対するよう党議拘束されたことについて、「隠蔽(いんぺい)」と見られるリスクがあるという批判が出た。
採決結果によると、14人の労働党議員が造反して動議を支持したほか、別の1人が賛成・反対の両方に票を投じた。これは通常、形式的な棄権とみなされる。
首相官邸の指示に造反して動議に反対しなかった労働党議員が、どのような処分を受けるかは、現時点では明らかになっていない。
自由民主党、スコットランド国民党(SDP)、緑の党、民主統一党(DUP)、ウェールズ党(プライド・カムリ)、リフォームUKの野党各党と、無所属議員9人も、動議に賛成して保守党側に回った。
労働党議員のうち53人については投票記録が残っていなかった。これは、投票を欠席する許可を得ている場合や公務中の場合があり、棄権を意味するものではない。
官邸に造反した労働党のエマ・ルーウェル議員は、採決前の討論で、政府の対応は「再び、世論とかけ離れ、断絶していることを強く感じさせる」と述べた。
ルーウェル議員は、官邸の対応は「何か隠しているのではないかという最悪の物語を助長」するもので、それによって「善良で誠実な同僚が隠蔽に加担していると非難されることになる」と主張した。
同議員はさらに、スターマー首相は「自分の潔白を晴らすためにそうするのだと、はっきり宣言しつつ」自ら調査を特権委に付託すべきだったと述べた。
労働党のレベッカ・ロング=ベイリー議員はBBC番組「ポリティクス・ライブ」で、5月7日の地方選の後に、スターマー首相の将来を「決める時」が来るだろうと話した。
一方で、下院審議では複数の労働党議員が政府の対応を擁護した。グリンダー・シン・ジョサン議員は、マンデルソン卿に対する審査をめぐる調査が議会の別の場で進んでいることを踏まえ、首相に対する調査を特権委員会に付託しようとする動きは「時期尚早」だと述べた。
労働党のアレックス・バロス=カーティス議員は、保守党による動議について「根拠が示されたとは考えない」と述べた。
動議否決を確かなものにするため政府は、来週の地方選を前にスコットランドで選挙活動をしていた労働党議員をロンドンへ呼び戻していた。

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「マンデルソンから逃げ切れない」
採決前の討論の冒頭で、保守党のベイドノック党首は、スターマー首相が自分の答弁内容をどう擁護してきたかを取り上げ、閣僚行動規範が記録を「可能な限り早い時点」で訂正する必要性を「非常に明確」に定めていると指摘した。
ベイドノック氏は、「首相が、この議場の答弁台から述べたことが正確でなかったのは極めて明白だ。適正手続きを完全に踏まなかったことは、明らかだ」と述べた。
これに対してダレン・ジョーンズ首席首相秘書官は、首相の対応を擁護しつつ、ベイドノック氏の主張を「一貫性のないまま激しくまくしたてている」と非難した。
外務省の担当者に「一切の圧力」を加えていないという首相の主張について、これを繰り返すようベイドノック党首がジョーンズ氏に迫ると、ジョーンズ氏は首相の発言は「適切な文脈」で理解されるべきだと答えた。
ジョーンズ氏は、「ピーター・マンデルソンの審査は一切不要で、審査結果に関わらずワシントンに派遣するべきだという圧力」があったという主張に対し、首相は反応したのだと述べた。この発言に対しては、野党議員がやじを浴びせた。
自由民主党のエド・デイヴィー党首はこれに先立ち、政府はむしろ生活費の高騰問題に集中する必要があると指摘し、「国民が信頼できる政府が何より必要だ」と強調した。
SNPのスティーヴン・フリン下院院内総務は、「ピーター・マンデルソンからも、自分たちの首相その人とその実績からも(労働党議員は)逃げ切ることはできない」と述べた。
リフォームUKのリチャード・タイス副党首は、スターマー首相は「手続き重視を誇りにしている」が、伝聞によるとその周囲や本人の内面には「そうした文化が存在しないように見える」と述べた。野党・緑の党のエリー・チョウンズ議員は、首相には「明らかに、答えるべき事案がある」と述べた。
マンデルソン卿は2024年12月、詳細な審査の実施より先に、駐米大使就任が発表された。2025年2月10日に正式に就任したものの、アメリカの性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)とのつながりを理由に、就任から7カ月後の昨年9月に大使を解任された。
首相はこの任命について謝罪したが、身辺審査の手続きが拙速だったのではないかとの批判が続いている。
この任命をめぐり、外務省の審査担当者が安全保障上の観点から懸念を示していたにもかかわらず、なぜ外務省が任命を承認したのたのかなど、首相は繰り返し説明を求められてきた。
28日の下院審議に先立ち下院外交委員会は、マンデルソン卿の大使就任を首相が決めた当時の外務省高官から証言を聴取するなど、審査手続きについて聞き取りを続けた。
フィリップ・バートン元外務次官は、官邸の誰からも事前に相談を受けなかったと述べる一方、マンデルソン卿とエプスティーン元被告の交友は知られていたため、この任命が「厄介な問題」になり得ると考えていたことも明らかにした。
バートン元次官は、首相の決定を「提示され」、「それを進めるよう言われた」のだと委員会で話した。
また、首相のモーガン・マクスウィーニー前補佐官は、マンデルソン卿の任命を推薦したのは「重大な誤り」だったと委員会で認めた。
マクスウィーニー氏は、官邸はマンデルソン卿を「速やかに」就任させたかったのだとしつつ、外務省職員に対して「手順を省く」よう求めたことは一切なかったと強調した。











