ヒズボラ、イスラエルとレバノンが合意した停戦を拒否

画像提供, Reuters
ジョン・サドワース、サマンサ・グランヴィル、ヘンリー・ムア
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは4日、イスラエルとレバノンの間の停戦条件を強く拒否した。この停戦合意はアメリカが支援しているもの。
イランが支援するヒズボラの最高指導者ナイム・カセム師は声明で、これまでの交渉はレバノンにとって「無駄」で「屈辱的」なもので、「レバノン国民の幅広い層」はこれを断固として拒否していると、強い表現で述べた。
これに先立ちイスラエルとレバノンは、「レバノン軍が独占的に支配し、すべての非国家主体を排除する試験的な区域」の創設を、アメリカが支援すると発表していた。
米国務省が3日に発表した共同声明の中で3カ国は、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによる攻撃の「完全な停止」などを停戦の条件としている。
ヒズボラはこの協議に参加していない。カセム師は4日、3カ国の発表に対し、「いわゆる停戦」ではヒズボラが攻撃をやめ、イスラエルとの南部戦線から戦闘員を撤退させることを条件としているため、これは自分たちの降伏に相当し、イスラエルの目的を達成するものだと反発した。
ヒズボラが拠点とするベイルート南郊ダヒエでも、道行く人たちは3カ国の合意内容について、同じように疑問視していた。
ダヒエで25年間、店舗を経営してきたというサミさんはBBCに対し、「一方だけが停戦するなどあり得ない。すべての当事者が停戦するのではければ、停戦はない」と話した。
4日にもレバノン国内が攻撃されたと、サミさんは指摘。これが休戦だというなら、あの攻撃はなんだったのかと述べ、「これは降伏だ。これは和平協定ではない。これは降伏協定だ」と批判した。
サミさんの店の向かい側でハディさん一家は35年間、店を経営してきたが、希望は見当たらないし、これは今に始まった感覚ではないと話した。
「私の世代、父の世代、おじいさんの世代は、あちらから何の希望も得られなかった。イスラエルの人たちというより、イスラエルの政府から、私たちは何の希望も得られなかった」

レバノンとイスラエルの合意は、アメリカの仲介のもと米首都ワシントンで4回の協議を経て成立した。イスラエルの地上部隊が現在占領する、イスラエル国境から北へ約30キロのリタニ川までの一帯から、「(ヒズボラの)全工作員を撤退させる」ことを条件としている。
協定は、「レバノン軍が独占的に支配し、すべての非国家主体を排除する試験的な区域」の創設を、アメリカが支援するとしているものの、この「試験的な区域」の位置や、実際にどう機能するかの説明はない。
この合意は、1日に発表された部分的な攻撃停止の合意に続くもので、レバノンは、ヒズボラがイスラエルを攻撃しないことと引き換えに、イスラエルはレバノンの首都ベイルートへの爆撃を控えることになると述べていた。
レバノンとイスラエル両国の代表は6月22日に再び会合を開き、「包括的合意の達成に向けて」さらに協議する予定。
イスラエルとの異例の会談に臨んだレバノン政府は、和平を拒否するのはヒズボラだけという事態になるのをヒズボラが嫌い、状況に流されることを選ぶと期待していたかもしれない。
協議を仲介していたアメリカに対してはイランが、イランとの停戦合意には必ずレバノンでの戦闘終了も含まれる必要があると強調している。そのためアメリカは、レバノンとイスラエルの合意が、イランとの和平交渉を大いに前進させると、期待していたと思われる。
しかし、レバノンでは国民の大多数はヒズボラを支持していないが、イスラエルによる侵攻を歓迎する声もあまりない。そしてヒズボラは今回の合意を全面的に拒否したことで、イスラエルに対抗し続け戦い続けられる唯一の勢力は自分たちだと明示することは、政治的得点につながると明らかに認識している。
シーア派イスラム教の民兵組織で、政党で社会運動でもあるヒズボラは、レバノンで最も強力なグループだ。イランの支援をもとに、レバノン軍よりも強力な軍隊を築き、イスラエルと一連の紛争を戦ってきたイスラエルをはじめ、米英など多くの国が、テロ組織に指定している。
レバノンのジョセフ・アウン大統領は、停戦は全当事者の「最終承認を経て、24時間以内に実施される可能性がある」と述べた。
一方、イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は、イスラエル軍は「この地域のテロリスト・インフラを解体する」ために、「当面は地上での砲撃と作戦を継続する」と述べた。
レバノンのメディアは4日、イスラエルがレバノン南部で攻撃を繰り返したと報じた。
レバノンの国営通信NNAは、4日にはベカー渓谷(高原)の町ソーモールへの空爆で5人が殺害されたほか、ティール市に近いマールーブの町でオートバイがイスラエルの航空機に攻撃され、1人が殺害されたと伝えた。
レバノン保健省は同日、レバノン南部のソーモール、マサケン、アラブ・アル・ジャリルの町を標的とした一連の空爆で、少なくとも8人が殺害され、15人が負傷したと発表した。
一方、国連の平和維持部隊「レバノン暫定駐留軍」(UNIFIL)は、マルジャユン近郊で3日夜にUNIFIL隊員が迫撃砲の砲撃を受け、隊員1人が死亡したと発表した。
イスラエル軍は、UNIFIL拠点の敷地内に着弾した迫撃砲を発射したのは、ヒズボラだと非難した。この件についてヒズボラはまだコメントしていない。
セルビアの国防省は、迫撃砲で殺害されたUNIFIL隊員はミロヴァン・ヨヴァノヴィッチ上級軍曹だと発表した。同上級軍曹は7500人の国連軍に所属する約170人のセルビア人のうちの1人。UNIFILは隊員約7500人のうち、170人がセルビア人という。
これとは別に、イスラエル軍は4日、兵士の1人、エイタン・シュムエル・レンベルグ大尉がレバノン南部で殺害されたと発表した。
イスラエル軍はさらに、同軍が活動していたレバノン南部で同日午後には、いくつかの「疑わしい空中標的」の衝突が確認されたとも述べた。負傷者は報告されていないという。
ヒズボラはこれより先に、レバノンの町カンタラとレバノン南部の戦略的要衝であるボーフォート城の周辺で、イスラエル軍部隊と軍用車両をドローンとロケットで攻撃したと発表した。
米・イスラエルが2月28日にイラン攻撃を開始し、イランの最高指導者を殺害したことへの報復として、ヒズボラが3月2日にイスラエルへロケット弾を発射。これによってレバノンはアメリカ、イスラエル、イラン間の戦争に巻き込まれた。イスラエルはレバノン全域での空爆と南部への地上侵攻で対応した。
アメリカが4月に仲介したイスラエルとレバノンの暫定的停戦合意で攻撃は止まらず、ヒズボラはイスラエル北部への攻撃を続けた。このため、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は今月1日、ヒズボラへの攻撃を強化し、レバノンの奥深くまで進軍するようイスラエル軍に命じた。
レバノン保健省によると、この戦争が始まって以来、レバノンでは少なくとも3526人が殺害された。この数字は戦闘員と民間人を区別していない。
国連によると、レバノンでは100万人以上が避難民として登録されており、イスラエルの避難命令の範囲はレバノン領土の8分の1以上に及んでいる。
対するイスラエルは、戦争中にイスラエルの兵士26人と民間人4人が国境の両側で殺害されたと明らかにしている。









