【解説】 ロシアの対独戦勝記念パレードに戦車なし、ウクライナでの戦争が計画通りでないこと示唆=ロシア編集長

緑の木々が並ぶ広場に、ロシア語で5月9日という白い文字や、金銀の大きな星型の勲章がついた、赤や水色の巨大な看板が立っている。その近くを迷彩服姿の男性3人が歩いている

画像提供, Natalia Kolesnikova/Anadolu via Getty Images

画像説明, ロシア・モスクワの赤の広場で開かれる対独戦勝記念式典で、軍事パレードに兵器が登場しないのは約20年ぶりだ。画像は、戦勝記念日の看板が設置された赤の広場
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スティーヴ・ローゼンバーグ、ロシア編集長(モスクワ)

ロシア・モスクワ市内の赤の広場は、今まさに「勝利」一色だ。

ロシア語で勝利を意味する「パビェーダ」という言葉が、巨大な赤い横断幕に書かれ、スクリーンにも映し出されている。近くでは、その言葉をかたどったモニュメントの前で自撮りする人たちがいる。

金属製の柵で封鎖された広場では、第2次世界大戦でのナチス・ドイツに対する勝利を記念する毎年恒例の戦勝記念日パレードに向けて、兵士たちがリハーサルを行っている。

ウラジーミル・プーチン政権下で構築されてきたロシアの国家理念は、第2次世界大戦における旧ソヴィエト連邦の勝利を中核に据えている。5月9日は、ロシアで最も重要な国民的祝日だ。

ところが、今年の5月9日のパレードは規模が縮小されることになった。赤の広場では約20年ぶりに兵器が登場しない。戦車も弾道ミサイルも登場しない。兵士の行進があるだけだ。

過去を思い起こそうとするクレムリン(ロシア大統領府)のやり方は、現状を実に雄弁に物語っている。ロシアによるウクライナでの戦争が、計画通りに進んでいないことを表している。

「我々の戦車は今、手一杯だ」と、ロシア国会のエフゲニー・ポポフ議員は私に言った。「戦っている最中だ。赤の広場より戦場で(戦車を)必要としている」。

「(ウクライナに対する)戦争が5年目に突入した中、ロシアは勝利を収めていないばかりか、ウクライナの圧力によりパレードまで縮小している。それを恥ずかしいと感じる人もいるのでは」と、私は指摘した。

すると、ポポフ議員は、「我々にほかにどんな選択肢があるというのか」と答えた。「NATO(北大西洋条約機構)加盟国やウクライナ、そしてイギリスの兵器が、あなた方の国王と首相が、我々を脅かしているではないか」。

ダークスーツ姿のポポフ氏が歩道に立ち、口を閉じて前を見ている
画像説明, ロシア国会のエフゲニー・ポポフ議員は、戦車は赤の広場ではなく戦場で必要だと語った

ウクライナによる「テロの脅威」

2022年2月、プーチン大統領はウクライナへの全面侵攻を開始することを決めた。

そして4年以上が経過した今も、クレムリンは戦争を継続する道を選び、西側諸国が紛争をあおっていると非難している。

だが、戦火はロシア国内に迫っている。

5日にはロシア・チュヴァシ共和国チェボクサルイで、ウクライナの長距離ミサイルとドローンによる攻撃があり、2人が死亡、20人以上が負傷した。4日未明には、ウクライナのドローンがモスクワの防空網を突破し、クレムリンから約6キロの高級住宅地にある高層集合住宅に命中した。死傷者は出なかったが、上層階の外壁が大きく損傷するなどした。

赤の広場の上空にウクライナのドローンが飛来するという脅威が、今年の軍事パレードを縮小する口実になっている。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、ウクライナによる「テロの脅威」があると説明。ロシア国防省も、9日の対独戦勝記念日にモスクワが攻撃されれば、ウクライナの首都キーウ中心部に対して「ミサイルによる大規模な報復攻撃」を行うと警告している。

「パビェーダ」という赤い大きな文字のモニュメントのクローズアップ写真
画像説明, 赤の広場には、ロシア語で「勝利」を意味する「パビェーダ」という言葉をかたどったモニュメントや看板などが設置されている

私は赤の広場に近い路地で、市民の反応を探ることにした。今年の戦勝記念日パレードに戦車が参加しないことを、ロシアの人々は気にかけているのかを知るために。

セルゲイさんは「安全上の問題はある」と認めつつ、「ですが、パレードで兵器を誇示することは、世界に向けてこの国の強さを示すことにもなる。何か見せるべきなのかもしれない」。

「パレード中に何か起きた場合を考えると、(兵器を)披露するのは愚かなことだと理解している」と、ユリヤさんは話した。「一方で、(兵器を披露しないのは)私たちが何かを恐れているという意味にもなる。それも好ましいとはいえない」。

「パレードは言うまでもなく、象徴的な催しだ」と、ウラジーミルさんは述べた。「ただ、完全なかたちでの開催が許されない状況なら、1年後まで待つしかない」。

長期化する侵攻と国民の支持

規模を縮小したパレードもまた、象徴的だといえる。戦争が4年以上続いてもなお、ウクライナでの勝利を勝ち取れずにいる国であることを表す。両国の紛争は1月に一つの節目を迎えた。「大祖国戦争」(1941~45年)として知られる、第2次世界大戦中の旧ソ連とナチス・ドイツの戦いの日数を越えたのだ。

この状況は、プーチン大統領に何らかの影響を及ぼしているのだろうか。

最新の複数の世論調査(ロシア国営機関のものも含む)では、プーチン大統領の国内支持率が低下していることを示唆している。

昨年末にかけて、プーチン大統領は軍服姿で何度かテレビに登場し、将官たちとウクライナでの戦争について自信たっぷりに議論していた。しかし今年に入ってからは、プーチン「最高司令官」の姿を目にする機会は大幅に減っている。

私がロシアの人たちと話をする中で感じたのは、ウクライナでの戦争に対する疲労感や生活費をめぐる懸念の高まり、そして最近行われた国家主導のインターネット規制に対する強いいら立ちだった。

ロシア当局は、戦勝記念日にモスクワでのモバイルインターネット通信を制限すると警告している。治安上の理由によると、当局は強調している。

ここ数カ月の間、ロシア国内の多くの市や町で起きている通信遮断について、当局はウクライナのドローン攻撃や破壊工作を防ぐためのものだと主張している。しかし、こうした措置は国内で強い反発を招いている。

それでも当局は、国民の反応をそれほど気にしていないようにみえる。

「失礼ながら、我々がインターネットをどう扱っているかは、あなたには関係のないことだ」と、ポポフ議員は私に言った。「ウクライナのミサイルやドローンで殺されるより、インターネットが使えない方がましだ」。

慰霊碑の前に迷彩服姿の兵士2人とが立っている。隣には赤いカーネーションを持った女性2人が立っている
画像説明, ウクライナとの戦闘に参加したロシア兵2人が、第2次世界大戦の「大祖国戦争」で死亡した村人たちの追悼式典に出席した(ロシア・ルブリョヴォ村)

モスクワ近郊のルブリョヴォ村では、児童らが第2次世界大戦の慰霊碑を囲み、「大祖国戦争」で死亡した村人たちをしのんで赤いカーネーションを手向けていた。赤の広場でのパレードは規模が縮小されるが、先の大戦で犠牲となった2700万人のソ連市民を追悼する式典は、ロシア各地で行われている。

慰霊碑のそばには、軍服に勲章をつけ、顔を隠した男性2人が立っていた。2人は、クレムリンが「特別軍事作戦」と呼び続けるウクライナでの戦争で、戦ってきた兵士だった。

私はそのうちの1人と話をした。この兵士は、ウクライナでの戦争を「大祖国戦争」になぞらえた。私は二つの戦争には重要な違いがあると指摘した。ロシアは1941年にナチス・ドイツに侵略されたが、2022年にウクライナに侵攻したのはロシアの方だと。

「ロシアは勝者の国だ」と、兵士は言い切った。「これまでもそうだったし、これからもそうあり続ける」。

しかし、開戦から4年以上がたった今も、ロシアは依然として、勝利を手にできないままだ。