【解説】 トランプ氏とゼレンスキー氏、依然対立か オスロ会談後に楽観論も流れるが

2人が抱き合い、その左右にはフィンランドのストゥブ大統領とノルウェーのストーレ首相が立っている。各国の国旗が後方に立てられている
画像説明, 会談を前に抱き合うアメリカのウィトコフ特使(中左)とウクライナのゼレンスキー大統領(20日、オスロ)
Published
この記事は約 9 分で読めます

ポール・アダムス外交担当編集委員

ドナルド・トランプ米大統領の特使、スティーヴ・ウィトコフ氏が、オスロで20日午後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と、会談を前に抱擁を交わした。だが、戦争で荒廃した自国ウクライナに対するアメリカ政府の今の方向性について、ゼレンスキー氏が抱いている懸念が払拭された可能性は低い。

ゼレンスキー氏は、抱擁の瞬間の動画をソーシャルメディアに投稿し、「ウクライナは平和のために努力している。パートナーたちの支援に感謝する!」というメッセージを添えた。

だが、今月起きたあらゆることを踏まえてもなお、ゼレンスキー氏はトランプ氏をパートナーとみなしているのだろうか?

二人が親しい関係だったことは一度もない。それは明らかだ。しかし、今度こそ完全に仲違いしたのか?

この10日間、ただでさえ難しい両者の関係にかつてないほど深い亀裂が生じていることが、言葉と行動の両方から明らかになった。

2人が相手について話す際の、口ぶりを聞くだけで十分だった。

「ゼレンスキーは、我々が付き合う相手として、良くない」。トランプ氏は先週、米メディアのニュースマックスにそう言った。

今週になっても、言葉による攻撃は続いている。

「ゼレンスキーは自分が何を言っているのか分かっていない」。トランプ氏は19日にはこう言った。これに先立ちゼレンスキー氏は、アメリカとロシアのディーゼル燃料取引合意は誤りだと、歴史が評価するはずだとの考えを示していた。この発言について記者に質問され、トランプ氏は上記のように答えたのだ。

こうした個人攻撃は、トランプ氏の強引な外交手法の典型だ。いつ真剣に受け止めたらいいのか、判断するのは難しい。

トランプ氏は6月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を激しく非難し、「まともな判断力が全くない」と卑語を使って述べた。ところがその4カ月後には、ネタニヤフ氏を熱烈に支持し、「偉大な戦士の首相」と称賛した。

英シンクタンク「欧州改革センター」のイアン・ボンド氏は「トランプ氏はいつでもUターンできる」と言いつつ、「だが、現状は確かに、悪いものに思える」と話した。

一方、ゼレンスキー氏はこれまでおおむね、信頼できないが重要な存在のアメリカ大統領について、言葉を選んで慎重に評してきた。

だが今月、ゼレンスキー氏がいら立っているのは明らかだ。米議会代表団に対し、「友人同士では説明しにくいアメリカ側の決定」について語り、「私たちへの支援を遅らせると、政治的な決定がなされた」のではないかとの懸念を表明した。

トランプ氏が、交渉による解決の最大の障害はゼレンスキー氏だと非難したことをめぐっては、ゼレンスキー氏はかつてないほどうんざりして、いら立っている様子だった。

「私たちは、この戦争を尊厳をもって終わらせようとするパートナーたちによる、文字通りあらゆる試みを歓迎してきた」と、ゼレンスキー氏は19日、通信アプリテレグラムに書いた(太字は原文ではすべて大文字)。

言葉はさておくとして、関係は実際どれほど悪化しているのだろう。

ある意味、現状と似たような状況は過去にもあった。

2025年2月にトランプ氏がホワイトハウスで、ゼレンスキー氏を「第3次世界大戦になるような賭けをしている」と非難したのがテレビ中継された後、アメリカはウクライナとの間で軍事支援を停止し、情報共有を制限した。

この時の危機は1週間で去った。そして同年、トランプ政権がウクライナへの直接的な軍事支援の支出を中止すると決めると、代わりに欧州諸国がアメリカ製装備品の費用を負担する仕組みが設けられた。

例外が、今年アメリカが始めたイランとの戦争によって、切実に必要となっている米製防空ミサイル「パトリオット」だ。

世界的な不足のなか、ウクライナへの供給は、わずかな数にまで減少した。おかげで、ロシアの弾道ミサイルをウクライナが迎撃するのは、これまで以上に困難になっている。

米紙ワシントン・ポストは、匿名のウクライナ当局者の話として、ウクライナのパトリオットの備蓄は「わずか数発」だと報道した。米同盟国が備蓄をウクライナに回そうとしているが、その承認をトランプ政権が遅らせているのだという。

同様の懸念は過去にも表面化したが、最近の報道(内容が正しいのか米当局は明確にしていない)は、ウクライナの状況がいっそう悪化する状況下でのものだ。

今月初めに、アメリカのウィトコフ特使とジャレッド・クシュナー特使との会談のため米マイアミに到着したウクライナの交渉団は、不意打ちを食らった。トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、ロシア製ディーゼル燃料の米市場への輸入で合意したとのニュースが流れたのだった。

専門家らは、(トランプ政権がロシアからディーゼル燃料を買う動機として明らかな)米中間選挙を前に、この措置がアメリカのガソリン価格を下げるのにどれほど効果があるのか疑問だとした。ただ、ウクライナによるロシアの石油精製施設への長距離攻撃をアメリカが不満に思っていることや、アメリカがロシアとの取引に前向きだということを示す合意だけに、ウクライナに対する痛烈な非難となった。

トランプ氏は16日、さらに踏み込んだ。ロシアに対する広範な制裁措置の発効の2日前に、その適用を撤回したのだ。

トランプ氏は、グレアム法(ウクライナを強く支持し、7月に死去したサウスカロライナ州選出のリンジー・グレアム上院議員にちなんで名付けられた)に含まれる制裁措置が、自分の和平仲介の努力を妨げると主張した。

これは、ウクライナとその支援国にとっては、アメリカがロシア側に立っていることを示す新たな懸念材料となった。

かつてアメリカの駐ウクライナ大使を務めたウィリアム・テイラー氏は、「トランプ政権がやっているのは、ロシアにニンジンを与え、ウクライナにはムチを振りかざすことだ」とBBCに話した。

「説明がつかないし、悲しいことだ」

一方、プーチン氏の特使のキリル・ドミトリエフ氏は、これを「重要かつ真に歴史的な瞬間」と評した。

ロシア政府にとってこれは、「アラスカの精神」への歓迎すべき回帰に思えただろう。このフレーズは、2025年8月にアラスカ州アンカレッジで開かれた米ロ首脳会談の後ロシア当局者が盛んに使ったものだ。

トランプ氏がウクライナを見捨てているという印象を強めている材料は、ほかにもある。米政府がウクライナへの情報提供を制限し、イーロン・マスク氏の衛星通信サービス「スターリンク」へのウクライナのアクセスを妨害したという疑惑だ。これも、米政府は事実なのか明らかにしていない。

ロシアによるウクライナの都市へのドローンとミサイル攻撃が激化するなか、ウクライナ政府は、米衛星の情報を使った事前警告が不足しているとしている。

ゼレンスキー氏は「弾道(ミサイル)攻撃を受けていた3日間、私たちはそれを受け取れなかった」と米NBCニュースに話した。

今月12日、ロシアのS-400ミサイル5発がキーウに着弾した。報道によると、空襲警報や携帯電話の警報が鳴る前に着弾したという。

アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は、情報提供の中断を否定。早期警戒情報が一時的に途絶えたのは、「ソフトウエアの問題」だとした。

ウクライナのスターリンクへのアクセスについても、同様の不確実性が存在する。

ウクライナ当局は1週間前、システムが制限されており、端末が高速接続を維持できなくなっているため、ウクライナ軍が高速で移動するロシアのドローンを迎撃することが困難になっていると報告した。

ウクライナは夏以降、高性能ジェット推進型ドローンによる攻撃の波への対応に苦慮している。

ウクライナによるスターリンク(またはその軍事版「スターシールド」)の利用制限を、誰が命令したのかは明らかではない。ロイター通信は、ホワイトハウスだったと報じている。

ルビオ氏は「ホワイトハウスの誰も、インターネットの速度を落とすよう誰かに指示したことはない」と述べた。

しかし、こうした疑念が頻繁に表面化していることは、アメリカとウクライナの関係をむしばみ続ける信頼の欠如を示している。

こうしたことの多くは、トランプ氏がウクライナ全般、とりわけゼレンスキー氏に対して長年抱いている、不信感が根底にあるようだ。

建物が大きく崩れ、その前にはクレーターのようなものができている。オレンジ色のベストを着た数人が近にいる
画像説明, ロシアによるウクライナ攻撃は弱まることなく続いている(20日、ハルキウ)

トランプ氏は10年前、自分の大統領就任をウクライナが阻止しようとしたと確信するようになった。根拠のない主張の中には、野党・民主党の全国委員会が、ウクライナのどこかにサーバーを隠し持っているというものもあった。

その3年後にゼレンスキー氏が大統領に就任すると、トランプ氏が要求した選挙干渉疑惑の捜査を拒んだ。

2019年7月の悪名高い電話のやりとりでは、トランプ氏はゼレンスキー氏に、ジョー・バイデン氏の調査を要求。ゼレンスキー氏は再びこれを拒否した。翌2020年、バイデン氏は大統領選挙でトランプ氏を破った。

トランプ政権は当時、ウクライナへの3億9100万ドル(約618億円)の軍事支援を保留していた。これが最終的にトランプ氏の最初の弾劾訴追につながった。

トランプ氏がこうした過去の屈辱について怒り続けているのか、そしてそれが現在のウクライナ政策に影響を及ぼしているかは定かではない。それでも、ジェットコースターのように激しく揺れるアメリカとウクライナ関係が、再び胃を痛くするような急降下の局面を迎えたことは明らかだ。

オスロでの会談後、ウィトコフ特使は改訂された提案を携えてロシア・サンクトペテルブルクに向かった。次に注目されるのはプーチン氏だ。

ノルウェーのヨナス・ガール・ストーレ首相は、オスロでの会談が「いくつかの問題を解決するのに」役立ったと述べた。

また、「昨日や1週間前の発言を掘り下げても(中略)何の得にもならない」と、角が立たないように述べた。

ゼレンスキー氏は、会談があった日について、米国務長官との実りある会談で始まったとし、早期警戒システムの問題はすでに解決されたと示唆した。また、パトリオットとスターリンクについても楽観的な見方を示した。

「私たちは良い結果も出せると思う」とゼレンスキー氏は言った。

楽観的なトーンがうかがえるが、ゼレンスキー氏とトランプ氏が再び対立しているようだという事実からは、目をそらすことはできない。