「逃げ場がなかった」 タイ首都のバー火災、目撃者が惨状語る

火災が起きたバーの前で、涙を流す女性の肩に男性が手を置いている

画像提供, EPA

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パニサ・アエモチャ(バンコク)、パウィーナ・ニンブット(バンコク)、ケリー・アン(シンガポール)

タイ首都バンコクのバーで12日遅くに火災が発生した時、インディーズバンド「トッサカン」は、満員の店内で演奏をしていた。ステージ脇に座っていたバンドのマネージャー、アイス・アティパット・ウィジャーンさんは、キーボード奏者の後ろから煙が立ち上っていることに気がづいた。

キーボードを演奏していたクワンさんは、客に逃げるよう叫んだ。その数秒後、バー「ロン・ビア・ナ・ラップラオ」は、猛烈な炎に襲われた。

アイスさんは、煙に包まれた店内から脱出しようとした際に、ドアの開閉に手間取ったという。

「みんな走っていて、押し合いになっていた」と、アイスさんはタイのトーク番組「ホーン・クラセ」で話した。出口に向かってはって進んでいると、何かが爆発し、店の外へ吹き飛ばされたという。

「自分のガールフレンドの遺体が運び出される光景、火災でやけどを負った友人の姿、そしてあそこで起きたことすべてが、今も脳裏に焼きついている」とアイスさんは話したと、AFP通信は伝えた。

タイ当局は13日、繁華街チャトチャック地区で起きたこの火災で、少なくとも28人が死亡し、数十人が負傷したと確認したと発表した。

バンドメンバーのパッチャラ・ソンパットケオさんはフェイスブックに、キーボード担当のクワンさんと、女性ボーカリストのブリーズさん、ドラマーのビューさんが、火災で負ったけがが原因で死亡したと投稿した。

もう1人のメンバー、ディンさんは、一時行方が分からなくなっていたが、ソーシャルメディアへの投稿によると13日夜に所在が確認された。容体は明らかになっていない。

タイ・メディアによると、トッサカンのリードボーカリスト、ティック・チャイチャナさんは、火災が起きる直前にトイレへ行っていたため、無傷で脱出できたという。オンライン上に投稿された映像には、泣きながら走ってバーの外へ出てくるティックさんの姿が映っていた。

ティックさんはフェイスブックに、「私は無事です。心配してくれた皆さん、ありがとうございます。ただ、携帯電話も持ち物もすべて燃えました。(中略)今は本当に精神的に参っています」と投稿した。

動画説明, 火災が起きたバーの正面入り口から巨大な炎が噴き出し、人々が逃げ出す様子を捉えた動画(注意:悲惨な場面が含まれます)
火災後のバー内部を捉えた画像。壁やステージ、楽器が真っ黒に焼け、ガラスが壊れた窓から日差しが差し込んでいる

画像提供, Bangkok Metropolitan Administration

地元住民に人気の店

バー「ロン・ビア・ナ・ラップラオ」は、同じ通り沿いに並ぶ多くのバーやパブと同様、地元住民に人気の店だった。この記事の執筆時点では、死亡が確認された外国人はラオス人1人だけだ。

オンライン上に投稿された映像には、パニック状態の客らが悲鳴を上げる様子が映っている。服に火がついた人もいる。炎に包まれたバーの入り口から人々が逃げ出しているのが確認できる。

ロイター通信は、「ドーンという音がした。本当に一瞬の、ドーンという音だった。(中略)逃げ出す方法がまったくなかった」と言うウサ・タドスリーさん(41)の話を伝えた。友人2人がこの火災で亡くなったとも、ウサさんは話した。

複数の目撃者は、店内に閉じ込められた友人たちを助けようとしたが、無理だったと証言している。

「みんなの叫び声が聞こえた。きょうだいを助けに行きたかったけど、中に入れる状況ではなかった」と、ケーウドン・ポンパニーさんはロイター通信に語った。「煙、粉じん、高温が充満していた」。

タイ当局によると、少なくとも71人が負傷し、うち25人が重体となっている。

周辺住民たちは、火災の規模に衝撃を受けたと話している。

バーの向かいに住むティティ・リウチャさんは、「消防隊が至る所で火を消そうとしているのが見えた」と語った。「救急車や救助車両が至る所に停まっていた。自分はどうすればいいのか分からず、しばらくがく然と座っていた」。

ティティさんと、同じくバーの近くに住むシリンヤさんはBBCタイ語に対し、出火当初、自宅の方へ燃え広がるのではないかと不安だったと話した。

シリンヤさんは、「これほどの大火災を見たのは初めてだ」と述べた。

タイ・バンコクのチャトチャック地区の衛星画像。火災が起きたバー「ロン・ビア・ナ・ラップラオ」は画像の中央に赤丸で示されている

「すごく暗い」「迷路のような」店内

消防隊は現場に到着後、約30分で火を鎮圧した。

シリンヤさんは、「こうしたパブは本当にたくさんあるので」、同じような悲劇がまた起きるのではないかと懸念している。

過去に一度、火災が起きたバーを訪れたことがあるというシリンヤさんは、店内は「すごく暗くて、天井が低かった」と振り返った。

そして、「避難経路が分かりにくかった」とも付け加えた。

5月に同店を訪れたというパッサラ・カムロートさんも、店内は暗く、「迷路のよう」で驚いたと話した。

「営業しているようにすら見えない仕様のガラスが使われていた。すごく暗くて、中は何も見えなかった」と、パッサラさんは語った。

また、トイレに行くには「曲がりくねった通路」を進む必要があったと振り返り、出口の表示も分かりにくかったと指摘した。

「店に入った瞬間、『うわ、もし火事になったら、どうやって外に出ればいいの?』とまず最初に思った」と、パッサラさんは話した。

紺のトップスを着た男性が、暗い室内で口を閉じ、前方を見ている

画像提供, BBC/Panisa Aemocha

安全基準強化を求める声

13日の早い段階で、バンコクのチャチャート・シティパン都知事は、バーの天井の可燃性の内装が、急速な延焼につながった可能性があるとの見方を示した。

また、建物の非常口付近で意識不明の状態で見つかった人が複数いるとの報告もあり、避難時に何らかの障害物があった可能性が示唆されていると、知事は付け加えた。ただ、こうした推測が事実かどうかは、徹底的な調査で確認する必要があるとした。

今回の悲劇的な火災を受け、当局に対しては、防火安全基準の強化や、とりわけナイトライフ業界の従業員に対する適切な訓練の実施を求める声が改めて高まっている。

現場のバーの近くで働く運転手は、施設のオーナーは従業員に避難手順を覚えさせるために、定期的に避難訓練を行うべきだとしている。

「あるいは、こうした場所を設計する際には、ドアの幅をもっと広く設計すべきだ。そうすることで、客が逃げやすくなるのだから」と、この男性は話した。

「亡くなった人たちが気の毒だ。何が起きているのか、おそらく分からなかったと思う」