【解説】 イランがイスラエル攻撃……イランの政権は自分たちの粘り強さを自覚か

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アミール・アジミ BBCペルシャ語編集長
イスラエルがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを攻撃し、これに対してイランは7日夜から、イスラエルにミサイルとドローンを発射した。攻撃の直接的な軍事的意義は限定的だろうと、当初は思われた。しかし、政治的な意義は、はるかに大きいのかもしれない。
イランはこれまで長年にわたり大体において、イスラエルを直接攻撃する際には、イランの領土、司令官、または利益に対するイスラエルの行動を理由にしてきた。しかし、今回は違った。イランは今回、同盟国の一つが攻撃されたことを、イスラエル攻撃の理由とした。イスラエルがレバノンの首都ベイルート南部にある、ヒズボラ関連の建物を攻撃したことを受け、イランは行動に出たのだ。
イラン軍は8日、イスラエル攻撃を停止すると発表した。しかし、そもそも攻撃したこと自体、その決定自体から、重要な疑問が浮かび上がる。なぜイランの指導部は、このタイミングでイスラエルを攻撃することが正しい選択だと思ったのだろう。そのようなことをすれば、イスラエルの軍事行動が再燃する危険があるばかりか、アメリカとの間で続くおぼつかない和平交渉をも危うくしかねないと、イラン首脳たちは承知していたはずだ。
数カ月続いた紛争を経て、イラン指導部が自分たちの置かれた立場をどう評価しているかに、答えの一部があるのかもしれない。
イスラム共和国(イラン)は戦争を経て、力を失った部分もあるが、自分たちの粘り強さをより強く自覚するようになった。
イスラエルとアメリカはイランに多大な軍事的圧力と経済制裁をかけた。アメリカは海上封鎖も実施した。それにもかかわらず、イラン国家は存続している。政府は依然として権力を握っており、治安維持のための機構はそのまま残っている。反体制派は繰り返し、国民が政権に対して大々的に蜂起すると予想したが、それは実現しなかった。
こうした経験が、イラン政府の計算を変えたのかもしれない。
自分たちはどんな代償を払ってでも対立を避けるべき、弱い立場の当事者なのだという自己認識を抱くのを、イランはやめるかもしれない。むしろ、最悪の事態を耐え抜いてきた自分たちは今や、絶対に譲れない一線、いわゆるレッドラインを相手に突き付けて、要求できる力のある国なのだと、そういう認識を今後は強めるかもしれない。
したがって、イスラエルへの今回の攻撃は、報復というよりはむしろ抑止目的だったのかもしれない。イラン政府は、周辺地域の同盟国に対する攻撃はもはやイラン自体への攻撃と同一視すると、そういう合図を送っている可能性がある。
このようなメッセージは、ヒズボラ、イラクの民兵、そして「抵抗の枢軸」として知られるイランの地域ネットワークの他のメンバーにとって、とりわけ重要な意味を持つ。イランが周辺地域で影響力を持つという認識は、イランが必ず提携国を支えるという信頼をその根拠の一部としてきたからだ。イスラエルに対して公然と警告した後に何も反応していなかったら、イランはその信頼を損ねていたかもしれない。
こうして見てみると、今回の攻撃はただイスラエルだけを狙ったものではなかった。今回の攻撃は、イランが警告した通りに動くのかどうか注視していた、米・イスラエルと同盟を結ぶ湾岸諸国を視野に入れたものでもあった。
攻撃のタイミングも同じくらい、注目に値する。
ドナルド・トランプ米大統領は最近、イランとの合意は手の届くところにあるかもしれないと匂わせていた。だとするなら、通常の理屈からすれば、イランは外交努力を危険にさらすような行動は避けるべきだ。
しかし、イランは逆の発想でいるのかもしれない。
イランの指導者たちは、限定的あるいは計算された軍事行動を通じて自分たちの力を示せば、それは交渉上の立場を弱めるどころか、むしろ強化するかもしれないと、そう結論したのかもしれない。
イラン政府の目線からすると、自分たちには武力行使の用意があると示すのは、自分たちにはまだ選択肢があるのだと米・イスラエルの両方に念押しすることが狙いなのかもしれない。
だからといって、イランが交渉の失敗を望んでいるとは限らない。イランは先例を確立して政治的なメッセージを送るために行動したようだが、事態のエスカレーションが不可避なほどの行動ではなかった。
その計算が正解だったかどうかは、まだ分からない。
今回の双方向の攻撃について、一般のイラン人の間にはさまざまな意見がある。それは、現状に関する多様な世論を反映するものだ。
イランの行動は、反応として正当だという意見もある。BBCペルシャ語の利用者の一人は、「イランがレバノンを守るために紛争に参加するのは、誠実で正しいことだ。核合意以来、イランが国際法を破ったことはない。そして、今回の攻撃は相手側が停戦のルールを破ったことへの対応だった」と話した。
イラン政府の優先順位を疑問視する人もいる。「ほぼ2カ月間、イラン南部で何らかの戦闘(爆撃)があったが、真剣な反応はなかった。イラン政府は、イラン南部よりもレバノン南部を重視しているようだ」。
しかし、多くの人は何より、この対立を機にこれから何がどうなるのかを心配している。BBCペルシャ語の利用者の一人は、「正直なところ、戦争が再び始まってしまい、とても落胆した」と話した。
今回の一連の攻撃が、大きな紛争に発展する可能性は低いと考える人もいる。「この衝突はそれほど深刻ではなく、過去2回のような全面戦争にはならないだろう。イランはアメリカがもう直接戦争を望んでいないことを知っているので、主導権を握っている。(アメリカは)勝っていると支持者に感じさせるため、見た目とプロパガンダの意味もあってやっている」。
イランがなぜイスラエルを攻撃したのか、可能性はもう一つある。交渉の方向性について不満が募っていることの反映ということも、あり得ることだ。交渉を通じてイランにとって有意義な見返りを得られないまま譲歩だけ要求されていると、イラン側がそう認識しているなら、交渉の次の段階に入る前にレバレッジをいっそう効かせることを狙って、今回の行動に出た可能性がある。
どちらにしても、わずか数カ月前に外部の大勢が予想したよりも、今のイラン指導部が自信を強めている様子が、今回の攻撃からうかがえる。
イスラエルにまた爆撃されても、イランはその影響を吸収するつもりだったかどうかは重要ではない。大事なのは、外交交渉を続けると同時にイスラエルに攻撃されても耐えられると、今やイランがそう考えていることだ。もしそうなら、イランは周辺地域に新しい現実を確立しようとしているのかもしれない。イランが自分たちのレッドラインを積極的に確保しつつ、強い立場から交渉するという、中東における新しい構図だ。
こうした姿勢には危険が伴う。しかしそれでもこのアプローチは、中東における自国の地位と安全保障について、イラン・イスラム共和国の認識が大きく変化することを意味する。









