【解説】 トランプ氏が主張するロシアとウクライナの「エネルギー停戦」、ロシアはなぜ沈黙したままなのか

晴天の下、白いヘルメットを着けた作業員3人が、送電線の下に立っている。奥に白いクレーン車が停まっている
画像説明, ロシアのミサイル攻撃を受けた電力供給の復旧作業を進める、ウクライナ最大の民間エネルギー企業DTEKの従業員(7月、キーウ州)
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スティーヴ・ローゼンバーグ BBCロシア編集長

アメリカのドナルド・トランプ大統領は11日、ロシアとウクライナがエネルギーインフラへの攻撃を停止することで合意し、「即時発効」すると発表した。しかし、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「初耳だ」と述べた。そしてロシア側は公にコメントしていない。

では、誰が何と言っているのか。

まず、トランプ氏は、ロシアとウクライナが「エネルギー停戦」に合意したと主張している。

ウクライナ政府は、そのような合意は知らないとしながら、ロシアが合意するならそうした停戦に応じる用意があるとしている。

対してロシアは、ほとんど何も発言していない。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官を務めるドミトリー・ペスコフ氏は、毎日定例の記者との電話会見で、こうした停戦について合意が成立したのかと質問を受けた。

ペスコフ氏は「接触は続いている」、「この件について何か公表できることがあれば、必ず皆さんに知らせる」と答えた。

ペスコフ氏はこの件について多くを語らなかったが、クレムリン(ロシア大統領府)寄りのメディアは盛んに報じている。

例えば、「エネルギー停戦」に合意したというトランプ氏の発表は、ロシア政府にとって「贈り物」だと伝えるメディアもある。

「当然、我々はその恩恵を受ける」と、政府寄りのロシア紙モスコフスキー・コムソモーレツは結論した。

「つまり、ロシアは、ウクライナに残る最後の石油精製所を破壊するのを止めればいい。ただそれだけだ」

「あの製油所はすでに何度も攻撃した。そもそもほとんど稼働していない」と同紙は指摘した。

「一方でウクライナ政府は、(エネルギー停戦によって)ロシアに数多くある製油所を攻撃できなくなる。これは事実上、ロシアだけが恩恵を受ける一方的な取引だ。だからこそ、ロシア国内では誰もこれを公式に拒否していない」

要するにロシア政府は、トランプ氏の今回の発表はロシアではなくウクライナの行動を制限するものだと見ていることになる。

ここ数カ月、ウクライナの長距離ドローンによる攻撃で、ロシア国内の石油関連施設は甚大な被害を受けている。ロシア各地では燃料不足も起きている。

このような攻撃が続けば、ロシア側は、ウクライナ政府がアメリカの経済的利益だけでなく、11月の米中間選挙における与党・共和党の勝算も損なっていると主張するだろう。

トランプ氏は今月、燃料価格の引き下げを求める圧力が高まるなか、ロシア産ディーゼル燃料を輸入することでプーチン氏と合意したと発表した。ロシア当局者は、ウクライナによる攻撃がこの合意を損なおうとしていると主張するだろう。

トランプ氏は、ロシア産ディーゼル燃料をめぐる合意はアメリカの消費者に利益をもたらすと主張している。しかし、燃料価格を大きく引き下げるほどの輸入量になるのか、広く疑問視されている。

ダークスーツ姿のプーチン氏が木製テーブルに向かって座り、前方を見ている
画像説明, プーチン氏は、停戦への意向をほとんど示していない

それでも、ロシアの石油関連施設に対するウクライナのドローン攻撃がホワイトハウスを激怒させ、アメリカの対ウクライナ支援の縮小につながれば、クレムリンにとっては実に好都合だ。

アメリカ政府がウクライナとの情報共有や、ウクライナ向けの武器を欧州諸国に売却することを止めるなら、ロシア政府は歓迎するだろう。

トランプ氏が10日に、「ウクライナは新しい大統領を持つべき時だ」と発言したことも、ロシアを喜ばせている。

ウクライナ憲法は、戦時中は選挙を停止すると定めているが、ゼレンスキー大統領は、ロシアが60日間の全面停戦に同意すれば、選挙を実施すると約束している。

これに対して、ロシア政府はこう反応した。

「クレムリンと(プーチン)大統領は、これまで何度も述べてきたように、停戦を求めているのではなく、永続的な和平を求めている。その実現に向けて、可能なことは何でもする用意がある」と、ペスコフ報道官は述べた。

しかし、この「可能なことは何でも」という言葉には、60日間の停戦も、30日間の停戦も、あるいはそれに近い措置も含まれていない。

クレムリンは12日、ウクライナが選挙を実施できるよう1日だけ敵対行為を停止することを提案した。

この提案を、ウクライナや西側諸国は真剣なものとして受け止めないだろう。

ただ、これは決して意外なことではない。

なぜならプーチン氏はこれまで、停戦する意向をほとんど示していないからだ。

プーチン氏の最近の発言や演説、一連のシグナルからは、冬の到来を前に、クレムリンが攻撃を継続し、ウクライナへの圧力を大幅に強めようとしていることがうかがえる。

ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は12日、ウクライナには、停戦によって「一息つく間」を得る資格はないと述べた。

クレムリンは「永続的な平和」を求めていると主張しているが、現時点では戦闘を継続している。

ゼレンスキー氏は12日、ロシア軍が夜間から朝にかけて、ウクライナ各地の複数のエネルギー関連施設を攻撃したと主張した。

「この好機を利用して、ウクライナを石器時代に逆戻りさせ、ロシアが望む条件に基づく和平を受け入れさせるべきだ」と、モスコフスキー・コムソモーレツは伝えている。

クレムリンの戦争目標は変わっていない。ウクライナを降伏させる、それだけだ。

ロシア政府は、ディーゼル燃料をめぐりトランプ氏と合意したこと、そしてトランプ氏がゼレンスキー氏に対していら立ちを募らせていくことが、自国の目標達成に役立つと考えているようだ。