【解説】 トランプ氏には終戦が必要、しかしイランは引かず……BBC国際編集長

テヘランの壁画を通り過ぎる年配の男性と女性、そして若い女性。壁画には、数機のドローン数機と、固く握られた拳が描かれている

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画像説明, イランとアメリカの協議は続いているが、イラン政府は譲歩を公然と拒否している
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ジェレミー・ボウエン BBC国際編集長

アメリカとイランは4月8日に停戦発効を発表した。そして双方とも、保留状態の戦争に戻りたくないと、合図を出している。

武力衝突は絶えず続いているが、それでも双方とも協議を打ち切ろうとはしていない。両国の協議は依然として、パキスタンやカタールなどの仲介を通じて続いている。

アメリカは今も、イランのすぐ近くに強力な海軍と空軍を展開している。

イラン政権は、自軍の臨戦態勢を維持しているはずだ。そう見込んでも大丈夫だろう。そしてイランはこの停戦期間を利用して、軍の態勢を立て直し、米・イスラエルから受けた被害を修復しているはずだ。

湾岸地域とその周辺地域で軍事的な緊張が続くことで明らかに、誤算や誤解によるリスクが双方に出てしまう。

アメリカ側は、自分たちがイランのすぐそばにいるのだと示し、甚大な危害をイランに与えられるのだと示すことで、イランの政権に圧力をかけ続け、譲歩を引き出そうとしている。

イラン側はアメリカに、自分たちは抵抗し続けるし、その意志は何ら揺らいでいないと示し、いざ必要となればアメリカ軍基地やアラビア湾全域のインフラを攻撃してみせると、示し続けている。

アメリカとイランが全般的な合意にたどり着くための道のりは長く、もしかすると目標にたどりつくのは不可能なのかもしれない。しかしその道のりのまず第一の目標は、停戦を継続し、両国が今後の協議で何を議題にするのかをめぐる「覚書」について、合意することだ。

今やその最初の目標にも、なかなかたどり着けずにいる。

イスラエルの首相は、レバノンの首都ベイルートに爆撃機を再び仕向けると発言した。このことが、ドナルド・トランプ米大統領の選択肢をさらに減らした。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、自分が対レバノン攻勢を再開することで、アメリカとイランとの取引が難しくなっても、特に気にしないだろう。彼はそもそもイラン政権との停戦を望んでいなかった。ネタニヤフ氏に言わせるなら、アメリカとイランの取引はすべて、悪い取引なのだ。

イランは、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを支援し続けている。ヒズボラはもう長年、イランと同盟関係にあり、レバノン国内でイランの代理勢力であり続けている。

イランは、アメリカと全般的な合意に至るには、イスラエルがレバノン攻撃を止めなくてはならない、合意にはそれが含まれなくてはならないという姿勢だ。トランプ大統領は今のところ、イスラエルを抑制しようとしているようだ。

そしてホルムズ海峡の再開について言うと、真剣な交渉の前提条件として、イラン政権は何らかの対価を要求しそうだ。たとえば制裁緩和や資産の凍結解除などが想定される。

ホルムズ海峡はかつては活気に満ちた交通量の多い水路だったが、今やそこを通過する船はほんのわずかだ。アメリカとイスラエルが2月28日にイランを攻撃したのを機に、イランはこの海峡を封鎖した。

ホルムズ海峡の位置を示した中東の地図

サウジアラビアはパイプラインを使い、自国の原油を、紅海沿いの複数の港へ運んでいる。ホルムズ海峡を越えた先に自国の海岸線を持つアラブ首長国連邦(UAE)も、その短い海岸沿いにある石油ターミナルへ、パイプラインを使って原油を運んでいる。

しかし、世界の他の地域は依然として、石油やガスの通常の供給量の約20%を失い、その他の重要な輸出品も得られずにいる。

海峡封鎖が続くことは、世界経済の大部分にとって大惨事を意味する。アメリカはもはや湾岸地域の石油に依存していないが、それでもアメリカのガソリン価格が世界の石油市場に左右されることに変わりはない。

トランプ氏は窮地に立たされている。簡単に勝てるはずだと思い込んで戦争を始めるという、自分のとんでもない失策がもたらした事態に、がんじがらめになっているのだ。

夕暮れ時に、オレンジ色に染まる空と水面。洋上に停泊する多数の船は黒いシルエットになっている

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画像説明, ホルムズ海峡では船舶の通航がほぼ停止している。

トランプ氏とイスラエルのネタニヤフ首相は、緊密な連携関係にある。そしてこの二人はどちらも、自分たちの攻撃にイランの政権がどれだけ抵抗するか、いつまで攻撃を乗り切るつもりか、その覚悟と用意のほどを致命的に過小評価していた。

トランプ氏が今の状況を簡単に抜け出す方法はないし、イランの政権はその状態を継続させるつもりだ。

トランプ氏は、海峡の再開を必要としている。対イラン戦争はアメリカで非常に不評だ。戦闘が再び激化すれば、アメリカ国内での反対はますます強まるはずだ。

他方、海峡再開の条件としてイランがアメリカに要求する内容に、与党・共和党のタカ派は反対しているし、自分の勝利を高らかに誇示したいというトランプ氏本人の欲求も、イランへの譲歩をよしとしない。トランプ氏はこういう問題を抱えている。

トランプ氏は、自分とイランとの取引が、かつてバラク・オバマ政権が2015年に結んだイラン核合意と比較されることに、強い拒否反応を示す。オバマ政権による核合意をトランプ氏は非難し続け、第1次トランプ政権では一方的に離脱した。イランとの合意はおろか、協議継続のために停戦を延長する取り決めでさえ、トランプ氏はオバマ政権と比較されたくないのだ。

イランの指導者たちは、自分たちは政権の存続のために戦っているのだと信じている。その思いには、一定の正当性がある。

イスラエルの関与の有無にかかわらず、アメリカからの攻撃が増えたとしても、政権存続のために戦うというイランの覚悟は揺るがないはずだ。そのことは、かなりはっきりしている。

マルコ・ルビオ、ドナルド・トランプ、ピート・ヘグセス各氏がホワイトハウスで並んで会議室の机に向かっている。

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画像説明, トランプ氏と政権幹部は、イランから譲歩を引き出すことと、政治的影響を避けるために戦争を速やかに終わらせることの、バランスを取ろうとしている

湾岸地域の裕福な産油各国は、すでに長期的な経済的損害を受けており、これ以上の苦労を望んでいない。

アラブ諸国のビジネスモデルと長期的な発展は、湾岸地域が外国からの安全な投資先であり続け、世界経済の安定したハブであり続けることで成り立っている。

それに対して今回の戦争は、深刻な打撃をもたらした。湾岸諸国は安定しているというイメージを回復するには、今後何年もかかるだろう。

交渉再開に向けた外交努力を仲介するため、カタールはパキスタンと共に全面的にかかわっている。

UAEとサウジアラビアは、それぞれ別の角度からイランに対応してきた。

UAEは、イスラエルとの戦略的関係を強化させている。イスラエルはすでにUAEにミサイル防衛システム「アイアンドーム」を提供し、その運用のためにイスラエル国防軍の兵を派遣している。

サウジアラビアがイランを攻撃したことも、明らかになっている。サウジアラビア側は、イランの攻撃に対する反撃だと説明している。しかし、サウジ高官たちによると、サウジアラビアはイランに、自分たちは米・イスラエル連合の一員としてではなく、独自に行動しているのだと明確に伝えたのだという。この点が重要だ。

トランプ氏とネタニヤフ氏がイランとの戦争に突入した時、二人とも自国の強力な空軍力があればテヘランのイスラム政権を排除するのに十分だと主張した。

二人とも間違っていた。

テヘランのイスラム政権は、戦争と制裁と孤立による厳しい試練を経ても、半世紀近く存続してきた。そして、アメリカとイスラエルの両首脳は、その政権の本質を誤解していた。

その誤解がもたらしたことの影響が、いまアメリカとイスラエルにふりかかっている。そして世界全体も、その影響を受けている。