【解説】 トランプ氏、米中間選挙で勝利なら全成人に5000ドル支給と表明 本当に可能なのか

ダークスーツに青いネクタイを着けたトランプ氏がマイクに向かって立ち、口を閉じ、左の方を見ている

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画像説明, 米中間選挙に向けた共和党大会の初日に演説したトランプ大統領(9日、テキサス州)
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アレックス・ボイド

アメリカのドナルド・トランプ大統領は9日夜、テキサス州で始まった共和党大会で演説した。その中で、11月の中間選挙で共和党が勝利すれば、国民の成人全員に5000ドル(約77万円)を支給すると表明した。ただ、その財源をどう確保するのかや、法的に認められるものなのかは明らかでない。

トランプ氏のこの発言に、党大会に集まった支持者からは大喝采が起きた。一方、野党・民主党は、「中身のない約束」だと批判した。

トランプ氏は党大会で、成人に支給される資金は国内で使用されなければならないとも述べた。だが、どのように監視するのかは不明だ。

J・D・ヴァンス副大統領は、関税収入を財源に充てる可能性を示唆。また、富裕層には支給されないだろうとした。

トランプ氏の支給案は合法か

米連邦法では、有権者の投票行動に影響を与える目的で金銭を提供することは違法だ。

しかし、一部の専門家は、9日のトランプ氏の提案は、合法な減税公約の一種とみなされる可能性があると指摘している。

英サウサンプトン大学の法学講師ジョーン・マホーニー博士はBBCに対し、今回の提案は合法だろうと述べた。ただ、政治家は「通常、これほど露骨な形では行わないものだ」とも指摘した。

マホーニー氏は、「一方では、共和党に投票すればお金がもらえるという、賄賂のように聞こえる。それ(賄賂)なら明らかに違法だろう」と述べた。

「しかし他方で、実際の投票先にかかわらず(成人)全員に支給されることになるので、そういう意味では賄賂とは言えない」

そのうえでマホーニー氏は、「合法だと思う。『自党が勝利すれば減税する』と訴えるのと同じ類の選挙公約だ。どの政党も常にそういうことをしている。(中略)それは明らかに完全に合法なことだ」とした。

他方、イギリスの王立国際問題研究所「チャタムハウス」でアメリカ・北米プログラムの責任者を務めるローレル・ラップ氏はBBCに対し、トランプ氏の提案は、選挙期間中に候補者が通常掲げる公約とは「まったく異なる、極めて取引的な合意」のようにみえると語った。

どれほどの費用がかかるのか

合法性とは別の問題もある。イランとの戦争などの影響もあり、アメリカの債務は増え続けている。そうした中で、トランプ氏の案が財政的に実現可能なのか疑問視する声が上がっている。

米国人の成人は約2億7000万人に上る。1人あたり5000ドルを支給する場合、政府の負担は約1兆3000億ドル(約200兆円)となる。

トランプ氏は財源をどのように確保するのか、詳細を明らかにしなかった。

アメリカでは歳出承認の権限は議会にある。しかしトランプ氏は、支払いについて議会承認を求めるつもりなのか言及しなかった。

また、法律の専門家たちは、これほど巨額の支出を大統領令で承認できる可能性は低いとの見方を示している。

ワシントンを拠点とするシンクタンク、タックス・ファウンデーションの上級エコノミスト、エリカ・ヨーク氏はBBCに対し、議会が承認するなら「極めて驚きだ」と述べた。

ヨーク氏は、「これは1兆3000億ドルを使う方法としては最悪の部類に入るだろう」とした。

「(アメリカの)財政赤字は今後も拡大し続けると予測されており、我々は極めて持続不可能な道を進んでいる」

関税収入を財源にできるのか

トランプ氏の演説後、ヴァンス副大統領は米FOXニュースに対し、トランプ氏の関税措置で得た収入を財源に充てる可能性を示唆した。

しかし、これまでに得た関税収入は、トランプ氏が提案する成人1人あたり5000ドル分の小切手を支給するには、必要総額を大幅に下回っている。

超党派政策センターによると、アメリカは2025年初頭以降、関税および物品税で約4750億ドル(約73兆円)を計上している。

ただ、連邦最高裁判所が今年初めに多くの関税措置を無効としたため、1000億ドル(約15兆円)超が還付された。

ホワイトハウスは、全成人への支払いをどのように実施するのかとの質問に対し、「悲観論者や否定論者は、一貫してトランプ大統領を疑ってきた」と、BBC宛ての声明で回答した。

ホワイトハウスのデイヴィス・イングル報道官は、「米国民からの継続的な支持と共に、トランプ大統領は今後も確かな成果を上げ続ける」と付け加えた。

2016年から2026年までのアメリカの負債総額を示すグラフ。過去10年で、約20兆ドルから40.047兆ドルと、2倍以上に膨れ上がっている

なぜ支給案を打ち出したのか

共和党の選挙戦略担当兼世論調査対策スタッフだったロバート・モラン氏は、トランプ氏の最新の案について、選挙まで2カ月を切った時期に打ち出されたという文脈でしっかりとらえるべきだと指摘した。

「異例の公約であり、その財源がどこから来るのかは分からない。とはいえ、今は選挙期間ただ中だ」とモラン氏はBBCに述べた。

前出のチャタムハウスのラップ氏は、トランプ氏が任期の最後の2年間を迎えるにあたり、議会での共和党の支配権を維持しようと、短期的な視点で考えていると指摘した。

ラップ氏は、「世論調査の結果が共和党にとっても、彼自身にとっても良いものではないため、彼は今や金銭という手段に頼っている」と述べた。

過去に類例はあるのか

トランプ氏は以前にも、関税収入を財源として2000ドルを小切手で支給する案を示したことがある。しかし、これは実現していない。

ジョー・バイデン前大統領は、2021年1月のジョージア州上院議員選挙で民主党が勝利した場合、米国民に2000ドルの新型コロナウイルス対策給付金を支給すると約束し、票を金で買おうとしているとの批判を受けた。

2024年大統領選前にも、同様の論争が巻き起こった。トランプ氏を支持する富豪イーロン・マスク氏が、七つの激戦州で、特定の請願書に署名した登録有権者に、現金で報奨金を支給することを提案した。

(追加取材:バーント・デブスマン・ジュニア・ホワイトハウス担当記者)