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マスク氏が世界初の「トリリオネア」に スペースXの株式公開で資産1兆ドル超え
アーチー・ミッチェル・ビジネス記者、カリ・ヘイズ・テクノロジー記者
イーロン・マスク氏は12日、所有する宇宙開発企業スペースXの株価が、過去最大規模の株式公開で急騰したことを受け、世界初のトリリオネア(資産1兆ドル=約160兆円=以上の富豪)となった。
電気自動車(EV)テスラとスペースXの創業者である同氏は、ブルームバーグの富豪番付によると、総純資産が1兆1100億ドル(約166兆5000億円)に達し、世界一の富豪としての地位を確固たるものにした。
ロケット、通信、人工知能(AI)関連企業であるスペースXはこの日、ナスダックに上場。評価額は2兆2000億ドル(約330兆円)に上った。
同社は1株135ドルで売り出したが、取引は150ドルで始まり、一時は170ドル50セントに達した。12日の終値は161ドルだった。
新規株式公開(IPO)をめぐっては、同社は12日の株式上場を前に、投資家および引受会社から750億ドルを調達した。
マスク氏はスペースXの株式の42%を保有しているため、同社のあらゆる事業に対して実質的に単独で支配権を有している。同氏は投資された資金を自らの裁量で使うことができる。
ブルームバーグによると、同氏が保有するスペースX株の価値は、取引終了時点で7671億ドルに達した。同氏はまた、スペースXのストックオプションを538億ドル分保有している。これに加え、1680億ドル相当のテスラ株と、同社のストックオプションを1164億ドル分を保有している。
資産急増で物議
マスク氏が世界初のトリリオネアとなったことは、直ちに資産格差をめぐる議論を引き起こした。同氏の資産は現在、ポーランドやスイスの国内総生産(GDP)に相当する。
このような前例のない規模の資産は、すでにマスク氏を世界政治における強大かつ論争を引き起こす人物へと変えている。
同氏は過去に、アメリカの政治指導者らを批判した後、ドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに数億ドル規模の資金を提供した。さらに昨年の数カ月間、「政府効率化局(DOGE)」を率いた。同局は大幅な政府支出削減を通じ、米国際開発庁(USAID)を閉鎖に追い込んだ。
医学誌ランセットに掲載された研究によると、これらの削減の影響で、2030年までに1400万人以上が死亡する可能性がある。
マスク氏はまた、イギリスを含む各国の指導層も批判している。多くの場合、移民や人種的分断の助長といった問題が絡んでいる。イギリスのキア・スターマー首相とも繰り返し衝突しており、最近では英学生ヘンリー・ノヴァク氏(18)殺害事件をめぐって対立した。
米民主党のバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員は、マスク氏がトリリオネアになったことを批判している。ウォーレン氏は、これは「警鐘」であるべきだと述べ、富裕税の必要性を浮き彫りにしていると主張した。
一方で、マスク氏がトリリオネアになったのは紙の上でのことで、その資産のほぼ全ては、テスラとスペースXの株式価値と結びついている。同氏は少なくとも1年間、スペースXの株式を売却できない。
また、今回のIPOにより、報酬の一部として割り当てられていた自社株によって、同社の現従業員および元従業員のうち4400人以上が、新たにミリオネア(資産100万ドル以上)となったとみられている。
将来への期待感が後押し
スペースXの評価額は、これまでの財務実績ではなく、将来の潜在的な収益に対する楽観的な見通しに大きく基づいている。
同社は現在、利益を上げておらず、事業運営による収入よりも支出の方が多い。
同社の財務提出書類によると、AIおよびその他のインフラへの巨額の投資のため、2025年から2026年にかけてこれまでに90億ドル以上の損失を計上している。
スペースXの事業の最大の焦点は、再利用可能な部品を用いたロケットの製造および打ち上げだ。
また、衛星通信サービス「スターリンク」の人工衛星を製造・打ち上げているほか、今年2月にはマスク氏が所有・運営していたxAIを買収し、AI事業にも参入した。
同社は株式公開で調達した資金を、ロケット、スターリンクの人工衛星、AIを中心に、「成長戦略を加速するため」に使用するとしている。これには、軌道上にデータセンターを構築するという投機的計画も含まれている。
投資会社ラッファー・テングラー・インベストメンツのトップで、スペースXの株式を購入したナンシー・テングラー氏は、同社のAI事業について、当該分野に対するマスク氏の野心にもかかわらず、「資金を燃やし続ける事業」だと形容した。
「いくつかの予測については割り引いて受け止めることが重要だ」とも、テングラー氏は述べた。
それでも同氏は、長期的な潜在力を理由にスペースXへの投資を行っていると語り、「我々の投資期間は3年、5年、さらには10年だ」と付け加えた。
同氏はまた、スペースXが今後2年以内にテスラと合併し、それぞれ単独の場合を上回る価値を持つ企業が形成される可能性があると予想している。
しかし、スペースXの野心は現時点では衛星や合併にとどまらず、さらに高い水準にある。
同社のIPO目論見書に記載されている通り、スペースXの使命は「生命を多惑星的なものにするために必要なシステムおよび技術を構築し、宇宙の真の本質を理解し、意識の光を星々へと広げること」にある。
また、自社の将来の成長と成功は、その大半が「月面経済」と呼ぶものの構築に基づいていると述べている。
これは、人や貨物を月や火星へ運ぶことを意味するが、宇宙空間に真の経済が成立するには、こうした活動が定期的に行われる必要がある。
スペースXは、こうした取り組みが実際に成功するかどうかについては不確実であると認めている。
同社は目論見書で、「当社の多くの取り組みは(中略)重大な技術的複雑性、未実証の技術、あるいは存在しない技術を伴っており、商業的成立性を達成しない可能性がある」と記している。
だがこのレベルの不確実性も、投資家を悩ませる様子はなかった。
資産運用会社ウェルス・クラブのチーフ投資ストラテジストであるスザンナ・ストリーター氏は、スペースX株の急騰は「イーロン・マスク氏のビジョンに対する非常に大きな関心を示している」と述べた。
「彼は長年にわたり、地球外への野心を語り、星に手を伸ばしてきた。多くの投資家が、その将来への熱意を共有しているようだ」
一方でストリーター氏は、12日の値動きは、「基礎的要因と同程度に、誇張された期待感と希少性によって推し進められている」と警告した。
多くの個人投資家がスペースXの上場に参加し株式を取得しようと強い関心を示す一方で、意図せず同社にエクスポージャー(潜在的な損失の可能性)を持つ投資家の数について懸念を示す声もあった。
年金や貯蓄口座は、しばしばインデックスファンドに投資されており、これらは主要企業の株式を組み入れるため、スペースXの株価変動の影響を受けることになる。
スペースXの株価が今後どの方向に変動するは、そのような投資家にとっても最大の関心事となる。
データ会社マージャーマーケットで株式資本市場調査を統括するサメル・カー氏は、「スペースXに対する疑問は、IPO直後の取引がどうなるかということよりも、価格が長期的にどのように維持されるのかだ」と語った。