【2026年サッカー男子W杯】 アメリカ、メキシコ、カナダは相違を乗り越えられるのか 初の3カ国共催

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アンソニー・ザーカー、ジェシカ・マーフィー、ウィル・グラント(米首都ワシントン、トロント、メキシコ市)

ディナーパーティーに到着すると、主催者たちが激しい口論の最中だった――。そんな感じかもしれない。

サッカー男子ワールドカップ(W杯)が米大陸で初めて共同開催される。北中米を訪れるサポーターたちは、開催3カ国が緊張した時期を経験しているのを実感するだろう。

大会は3カ国に点在する計16都市で実施される。開催国のアメリカ、カナダ、メキシコの関係は不和な状態が続いてきた。

これらの国の指導者らが昨年12月に米首都ワシントンで抽選会に臨み、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長と共に自撮り写真に納まったときには、根源的な問題が意識されることはなかった。だが、39日間にわたる大会を通じて協力し合うとなると、話は別だろう。

アメリカのドナルド・トランプ大統領は、この大陸では同国が支配的な勢力であることを、臆することなく公言している。これにより、3カ国間で現実の緊張を生んでいる貿易、移民、麻薬密輸といった問題が、再び表面化する可能性がある。これらはすべて、トランプ氏が大統領に復帰して以来、くすぶり続けている。

一方で、もしうまくいけば、このW杯が3カ国の絆を深める可能性もある。

貿易、観光、トランプ氏をめぐる緊張

アメリカの主要貿易相手国のメキシコとカナダは、トランプ氏によって真っ先に関税の対象にされたことを忘れてはいないだろう。

カナダは独自の対抗措置で応酬した。各州は米国産の酒類を店頭から撤去させ、国民もアメリカへの渡航を大幅に減らした。これはアメリカをいら立たせた。ちなみにカナダは、トランプ氏が繰り返し、アメリカの「51番目の州」にすると発言してきたことにも憤慨している。

カナダとメキシコはアメリカとの間で共通の問題を抱えており、それがそれらの国の関係にも影響を及ぼしていると指摘するのは、カナダのカルガリー大学で国際政策のディレクターを務めるカーロ・デイド氏だ。

トランプ氏の大統領2期目スタートを前にした時期、カナダはメキシコを「裏切った」と非難されていた。カナダとアメリカの当局は、中国の北米での投資について、メキシコが裏口になっていると主張していたからだった。

「それはまったく非礼なことだった」とデイド氏は話す。

これによりカナダのマーク・カーニー首相は、貿易でのアメリカ依存を減らすことに努めながら、メキシコとの関係修復にも努めざるを得なくなっている。

3カ国でうまくいくのか

W杯が3カ国によって共催されるのは初めてだ。開催地は北中米にまたがるため、関係する当局も多岐にわたる。

3カ国の間では、試合観戦のファンらが行ったり来たりする。そうなると、アメリカの強化した入国管理は、移動の支障を引き起こし、すでに高まっている緊張をさらにあおる恐れがある。

安全保障に関するアメリカの懸念は、イランとの戦争によって強まっている。それが人々の不満を膨らませ、ささいな出来事の思わぬエスカレートの可能性を高めることも考えられる。

作家でニューヨーク大学グローバルスポーツ学科の臨床助教授でもあるリンジー・サラ・クラスノフ氏は、「こうした世界的なスポーツイベントを共催することは、必ずしも共催国間の良好な関係につながるわけではない」と話す。

同氏によると、ニュージーランドとオーストラリアが共催した2023年の女子W杯は、全体としてプラスとなった。一方で、日本と韓国が共催した2002年の男子W杯は、長く複雑な歴史をもつ両国にとって「さまざまな効果」を生んだという。「2国間関係に悪影響は及ぼさなかったが、歴史的には引き分けのようにみなされている」と同氏は言う。

FIFAは今回の方式に大きな期待を寄せており、こう宣言している。「3カ国と大陸全体が、『私たちは一つになって世界を迎え入れ、史上最大かつ最高、そして最も包括的なFIFAワールドカップを実現させる』と声をそろえる瞬間だ」。

問題を覆い隠している?

今回の大会は、各国の指導者が近隣国とうまくやっていけることを示すだけでなく、国内問題をめぐって自分に批判的な人々に対し、自らの正しさを証明する場として利用しようと考えている可能性もある。

メキシコはまさにそうだ。同国では共催をめぐり、少なからず悲観的な見方が広がっていた。首都の主要空港の準備状況や、飽和状態にある公共交通機関、改装されたアステカ・スタジアム(エスタディオ・アステカ)を問題視する声が根強く出てきた。数カ月前には、短期間で終わったものの広範囲に及んだ暴力事件で、麻薬カルテルのメンバーらが街頭に姿を現した。

現在も、教員らの主要労組が年金や労働条件をめぐって全国ストライキを実施している。試合会場への主要幹線道路を封鎖する恐れがある大規模な抗議活動も起きている。そのスローガンは、「(要求への)解決策なしに、キックオフはない」だ。

数々の困難にも、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は毅然と前向きな姿勢を示し続けている。

「今こそ、世界最高のサッカーを目にし、私たちがどんな存在なのかをみんなで分かち合う時だ。私たちは、膨大な文化遺産をもつ国であるだけでなく、力強い人々で構成された国なのだ」とシェインバウム氏は昨年、宣言した。

メキシコのサッカージャーナリストのラファエル・プエンテ氏は、W杯の開幕に向けた時期に、同国が直面してきた問題を覆い隠したり、取り繕ったりするのは間違いだと主張する。

「ファンたちには、私たちが隠すことのできない問題に直面しても、我慢と良識ある振る舞いを見せてほしいと心から願っている」とプエンテ氏は言う。「私たちがただ望むのは、メキシコ国民が過去に、特に代表チームの活躍をめぐって示してきたような、興奮、夢、期待感だ」。

3人が大会を超えて目指すゴール

アナリストらは、3カ国が今後1カ月ほどの間にサッカーでうまくやれれば、その他の分野でも何らかの進展が見込める可能性があるとしている。

この3カ国は現在、「アメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」という自由貿易協定の困難な見直しに取り組んでいる。これにより、1994年以来何らかの形で維持されてきた貿易パートナーシップに不透明感が漂っている。

メキシコはアメリカとの正式な協議を開始した。一方、カナダはまだだ。

カルガリー大学のデイド氏は、カナダとメキシコは、トランプ政権が掲げる「中国の重要度を最優先事項に高める」という方針に関しても、異なる方向へ進んでいると指摘。カナダは中国との貿易関係の強化を目指し、メキシコは中国への関税を引き上げていると説明する。

他方、W杯は外交の好機でもある。昨年12月の抽選会では、トランプ、カーニー、シェインバウムの3氏がそろって満面の笑みを見せた。

「首脳らが一堂に会するのは、概して良いことだ」とデイド氏は言う。

自分の国が世界で「最もホットだ」と常々自慢するトランプ氏は、アメリカにとって世界の脚光を浴びる格好の機会だと、W杯を明確に捉えている。

同氏は、イベントへの出席やトゥルース・ソーシャルへの投稿を通じて、大会の主導的な立場を取ることを強く望んでいる。その姿勢は、アメリカの二つの隣国の反感を買い、北中米における関係に長期的に悪影響を及ぼす可能性もある。

一方で、トランプ氏は大会の成功に大きく力を入れている。進行を妨げるような外交上のトラブルを避けようと、特別な配慮をする可能性もある。

「サッカーは不思議なスポーツだ」と昔から言われる。このスポーツが予測不可能なように、今回の3カ国共同開催という新たな試みがどう転ぶかはわからない。

「これが非常に複雑で非常に難しくなることは最初から分かっていた」と前出のニューヨーク大学のクラスノフ氏は指摘する。「開催が初めに決まった時からそうだった」。