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ストレスと疲労、食料や水の問題も……ホルムズ海峡で足止めされている船員たち
ムキムル・アフサン記者(BBCニュース・バングラ語)、ムハンマド・ズバイル・カーン記者、グレイス・チョイ記者(BBCワールドサービス)
その海は時にあまりにも静かで、ハッサン・カーン船長は、自分の船が3カ月間も紛争地域の真ん中で足止めされていることを忘れてしまうという。
「本当に奇妙だ。船外はいたって普通に見えるのに、船内の人々は落ち着きがない」と、パキスタン出身のカーン船長は話した。カーン氏は本名を使いたくないため、この記事では仮名を使っている。
湾岸地域のこのエリアは一見、平常に見えるが、もちろんそうではない。アメリカとイスラエルが2月にイランに戦争を仕掛けて以来、カーン氏を含む2万人もの船員らが、ホルムズ海峡の内側やその周辺で足止めされている。通常は世界の石油・ガスの20%が通過する、かつて世界で最も通航量の多かった水路は、今や頭上をミサイルが飛び交い、海中に機雷が敷かれるなか、完全に停滞してしまった。
そうした中でも、カーン船長の船の乗組員は、通常の業務ルーティーンに従おうとしている。しかし、滅多に許可されない一時寄港の際に、下船しようとする船員はいない。にぎやかな冗談の言い合いも、不安に満ちた沈黙と、その合間に鳴る電話の音に変わってしまった。寝ている間も、どんな小さな音にも飛び起きるようになってしまった。
「頭の中でストレスがずっと続いている」と、カーン氏は話した。「みんなひたすら疲れ果てている。肉体的にも、精神的にも」
通航と供給
たとえミサイルや機雷による脅威がなかったとしても、ホルムズ海峡の内側で足止めされている船は、向こう側へ通航できない。国際海事機関(IMO)の推計では、こうした船は約1600隻に上る。
ホルムズ海峡は湾内から外海へ出る唯一の水路だが、戦争が始まって数日後、イランはこの狭い水路を封鎖し、許可のない通航を禁止した。
別の船で船長を務めるシャフィクル・イスラム氏は、「まるで池の中に閉じ込められたようだ。出口は一つしかなく、それがホルムズ海峡だ」と話した。
イスラム氏が乗るバングラデシュ船籍の「バングラー・ジョイジャトラ」は、南アフリカ行きの肥料3万7000トンを積載している。これまでに2度、海峡を出ようとしたが、2回とも失敗に終わった。
4月8日に停戦が発表された後、イスラム氏はイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が別の船に通行許可を出したといううわさを聞いた。そこで、他の4隻と共に海峡へと船を向けたが、すぐに航行するなと警告を受けたという。
その9日後、イランが、停戦に基づきホルムズ海峡は全ての商船に「完全に開放」されるだろうと述べたのを受け、イスラム氏は再び挑戦した。しかし、アメリカが港湾封鎖を解かなかったため、イランはすぐにこの決定をひるがえした。
この時点でイスラム氏の船は、海峡まで30カイリのところまで来ていたが、無線から攻撃の警告がひっきりなしに聞こえる中、引き返すしかなかったという。
足止めされている船舶は、安全のため、湾岸地域のさまざまな港に移動したり、沖合に停泊したりしている。しかし現在、食料や水の確保がますます困難になってきている。
物資を受け取ること自体は、港に入らなくてもまだ可能だ。この地域では、特にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイやアブダビ、クウェートなどで、船舶への供給サービスが非常に発達している。しかし今は、供給そのものが予測できなくなっている。
さまざまな必需品のうち、最も値上がりしているのは水だと、「バングラー・ジョイジャトラ」のラシェドゥル・ハサン機関長は話す。「2日前に水を180トン購入した。以前は1500~2000ドルだったが、今は1万1000ドルだ」。
別の船の乗組員は、「一部の飲食物の提供業者は、この状況を利用して利益を出そうとしているようだ」と語った。韓国出身のこの乗組員は、名前を明かしたくないとしている。
夏が近づくにつれ、これらの船ではさらに水が必要になる。5月の時点で、気温はすでに30度を超えており、最高で45度にまで達する。
カーン氏の船では、「まだ食料と水はあるが、(食事は)質素になってきた」という。牛肉や鶏肉はまだ手に入るが、野菜や豆類はほとんど入って来ない。
死と外交
しかし、イスラム氏はそれでも、自分は幸運だと考えている。開戦から2日後、イスラム氏の船は、イランの攻撃の標的となったドバイのジュベル・アリ港からわずか200メートルのところにいたからだ。これは、中型タンカーの全長ほどの距離だ。
それ以来、イスラム氏と30人の乗組員は、数えきれないほどの攻撃を目撃してきた。
「ミサイルがある船の上を通過することもあれば、別の船の上に破片が落ちてくることもある」と、イスラム船長は話す。
「夜通し攻撃が続く時はいつも、誰一人眠れない」と、ハサン機関長も続ける。「恐怖と絶望をこの目で見てきた」。
船員たちが恐れるのはもっともだ。IMOによると、これまでに39件の事案が確認されており、少なくとも11人が死亡、1人が行方不明となっている。
停戦合意後、こうした緊張は多少は和らいだ。しかし、海峡で続く軍事行動は、停戦がいかにもろいものかを物語る。
相変わらずドローンや戦闘機を見ると言う船員もいる。定期的に海軍の船や潜水艦を目撃すると話す船員もいる。
パキスタン出身で、石油タンカーの料理士を務めるサジド・マスード氏は、「そういう船は強い照明を使う。スピーカーからの放送も聞こえる。イランはそうやって海峡通過を阻止していると、船長が言っていた」と話す。身元を保護するため、マスード氏は仮名を使っている。
では、足止めされた乗組員たちに逃げ道はあるのか?
紛争を受けて多額の損失を被っている船舶会社は、人件費を削減できるのではないかと期待している。
多くの船員の契約期間が満了を迎えており、大規模な船員交代も遅れている。こうした状況を踏まえると、たとえ戦争が終わった後も、これらの船に十分な乗組員を確保するのは難しくなるだろう。
「この危機は、この仕事がどれだけ危険になり得るものかを示している」と、パキスタン出身の乗組員カミル氏(仮名)はBBCに話す。「多くの船員が、この職業について考え直すかもしれない」。
カミル氏はまた、今後の紛争では、国際水域へのアクセスが武器として利用されるのではないかと心配している。
料理士のマスード氏も、船員としてのキャリアについて考え直している。同氏の契約はあと1カ月で切れるという。
しかし、大きな決断の前に、マスード氏はただパキスタンに戻り、家族にドバイのおみやげを渡すのを楽しみにしていると話す。娘たちにはバービー人形を、息子にはおもちゃの飛行機を買った。
「すぐに家に帰れると思っていたが、まだ足止めされている」
「家族は毎日、いつ帰ってくるのかと聞いてくる。私には答えられない」
海事データ企業ケプラーによると、2月28日以降、750隻の船がホルムズ海峡を通過できたとみられている。
そうした船は中国やインド、パキスタンのものが多く、船主たちはイランとの直接外交に頼っているようだと、米首都ワシントンの非営利調査団体CNAのジョナサン・シュローデン博士は話す。
また、「1隻につき数百万ドルの通航料を払っている」ようだとも、シュローデン博士は述べた。
「バングラー・ジョイジャトラ」にとっては今や、外交が一番の頼みの綱だ。バングラデシュ政府は、同船を所有するバングラデシュ海運公社(BSC)と共に、その通航を確保しようと動いている。
だが、外交の道もまた険しい。
BSCのマフムドゥル・マレク代表によると、バングラデシュ政府は当初、イランの要求する通航料を払うことに合意していた。しかし、アメリカが通航料を払った国に制裁を科すと脅したため、この計画は中止になったという。
「我々は2重の危機の中にいる」とマレク氏は話した。
追加取材:キム・ヒョジュン(BBCニュース・コリア語)